## フォークナーの町の光と影
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光
* **家族愛と共同体意識:** フォークナーの作品では、家族や共同体への強い愛憎が入り混じった感情が描かれることが多い。崩壊した家族や共同体の中で、それでもなお繋がりを求め続ける人々の姿は、人間の持つ根源的な欲求を浮き彫りにする。例として、『響きと怒り』のコンプソン家に対するディルシーの献身的な姿や、『アブサロム、アブサロム!』におけるトーマス・サトペンの町作りへの執念が挙げられる。
* **自然の美しさ:** フォークナーは、ミシシッピ州オックスフォードの自然豊かな風景を作品の中に鮮やかに描き出す。自然は、時に人間の残酷さとは対照的に、静かで美しい存在として描かれ、登場人物たちの心情と対比されることがある。例えば、『熊』における老いた熊や自然描写は、文明社会の虚飾を浮き彫りにする役割を担っている。
* **過去の栄光:** フォークナーの作品では、アメリカ南北戦争以前の南部の繁栄と、その後の衰退が重要なテーマとして描かれる。過去の栄光は、登場人物たちにとって憧憬と同時に、逃れられない呪縛として影を落とす。
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影
* **人種差別:** フォークナーの作品は、アメリカ南部に根深く残る人種差別の問題を真正面から描く。白人と黒人の間の複雑な関係性、差別による社会的・経済的な格差、そしてそこから生まれる憎悪や暴力は、多くの作品で重要なテーマとなっている。『八月の光』におけるジョー・クリスマスの悲劇的な人生は、人種差別の残酷さを如実に物語っている。
* **階級社会の歪み:** フォークナーの描く南部の社会は、厳格な階級制度によって分断されている。旧家の没落と成り上がり者の台頭、貧困と格差の拡大は、社会に歪みを生み出し、人々の心を蝕む。『サンクチュアリ』では、腐敗した司法制度や、金と権力を持つ者が幅を利かせる社会の闇が描かれている。
* **過去への執着:** フォークナーの作品では、過去への強い執着が、登場人物たちの現在を縛り付けている様子が描かれる。過去の栄光にしがみつく者、過去の罪悪感から逃れられない者、過去のトラウマに苦しむ者など、過去は様々な形で登場人物たちに影を落とす。『音と怒り』のクェンティンは、過去の南部の伝統と妹に対する純粋な愛情の板挟みになり、破滅へと突き進んでいく。