## フォークナーの八月の光の比喩表現
フォークナーの小説『八月の光』は、そのタイトルが示すように、比喩表現に満ち溢れています。とりわけ、光と影、時間と記憶、そして南部の衰退というテーマを探求するために、多様なイメージが効果的に用いられています。
時間と記憶の比喩：「影」と「光」
フォークナーは、時間と記憶の経過を表現するために、「影」と「光」という対照的なイメージを頻繁に使用します。過去の出来事は、しばしば「影」として描写され、現在の出来事の上に重くのしかかり、登場人物たちの行動を規定します。
例えば、ジョー・クリスマスの過去は、彼を執拗に追いかける「影」として表現されます。彼は自分が孤児であり、出自も知らず、人種についても不確かであるという事実に常に苦しめられています。この不確実性は、彼の心を覆う「影」となり、彼を孤独と絶望へと追いやります。
一方、「光」は、しばしば、瞬間的な啓示や、一時的な希望を象徴するために用いられます。例えば、レーナ・グローブが出産する場面では、彼女の周りには「光」が満ち溢れ、新しい命の誕生と希望を暗示しています。
南部の衰退の比喩：「埃」と「腐敗」
フォークナーは、かつて栄華を誇った南部の衰退と、それに伴う道徳的な退廃を描くために、「埃」や「腐敗」といったイメージを用います。
例えば、コンプソン家の屋敷は、かつての壮麗さを失い、「埃」にまみれ、崩壊しつつある様子が描かれます。これは、かつての南部の栄光が失われ、過去のものとなったことを象徴しています。
また、「腐敗」は、登場人物たちの道徳的な退廃を象徴するために用いられます。例えば、ジェイソン・コンプソンは、金銭欲に取り憑かれ、妹のキャディやその娘クエンティンを冷酷に扱うようになります。彼の行動は、かつての南部の価値観である名誉や誇りが失われ、腐敗したことを示唆しています。
人間の苦悩と救済の比喩：「円環」と「旅」
フォークナーは、人間の苦悩と救済の可能性を探求するために、「円環」と「旅」というイメージを用います。
例えば、ジョー・クリスマスの人生は、彼が自分の出自の謎を解き明かそうと、故郷を離れては戻り、また離れるという「円環」に閉じ込められているかのように描かれます。この「円環」は、彼が過去から逃れられず、運命に翻弄され続けることを象徴しています。
一方、「旅」は、しばしば、自己発見と救済の可能性を象徴するために用いられます。例えば、レーナ・グローブは、子供を身ごもったことで故郷を離れ、長い「旅」に出ます。彼女の「旅」は、困難に満ちている一方で、新しい人生と希望に向けての「旅」でもあります。
このように、フォークナーは『八月の光』において、光と影、時間と記憶、南部の衰退、人間の苦悩と救済といったテーマを探求するために、多様な比喩表現を駆使しています。これらのイメージは、物語に深みと複雑さを加え、読者に深い思索を促します。