フォークナーのサンクチュアリの表現
登場人物の描き方
フォークナーは、『サンクチュアリ』において、登場人物の心理描写を重視するよりも、彼らの行動やセリフを通して、その内面を間接的に浮かび上がらせる手法を用いています。例えば、主人公であるテンプル・ドレイクは、物語を通して受け身で無気力な人物として描かれていますが、彼女の内面は明確には語られません。読者は、彼女の行動や周囲の人物との関係性から、彼女の心の奥底にある恐怖や絶望を読み解くことを促されます。
ゴシック小説の手法
『サンクチュアリ』は、ゴシック小説の特徴である、閉鎖的な空間、退廃的な雰囲気、暴力的な事件などを効果的に用いることで、人間の心の闇や社会の病巣を描き出しています。物語の舞台となるフランス家の屋敷は、古びて荒れ果てた様子が描写され、登場人物たちの心の闇を象徴する空間となっています。また、物語には、レイプ、殺人、自殺といったショッキングな事件が次々と起こり、人間の残虐性や道徳の崩壊が容赦なく描かれています。
南部社会の描写
フォークナーは、自らの故郷であるアメリカ南部を舞台に、その社会に潜む矛盾や歪みを鋭く告発しています。特に、『サンクチュアリ』では、人種差別、階級社会、男尊女卑といった南部の負の側面が色濃く描かれています。黒人男性のグッドウィンは、白人社会から疎外され、偽りの罪を着せられる存在として描かれており、テンプル・ドレイクは、男性中心社会の犠牲者として、自らの意思とは無関係に運命を翻弄されていきます。
象徴主義
『サンクチュアリ』では、登場人物や物事が象徴的な意味を持って描かれています。例えば、テンプル・ドレイクは、純潔と堕落、 innocence と experience の対比を象徴する存在として解釈されています。また、物語に登場する「サンクチュアリ」(聖域)という言葉自体が、皮肉な意味合いを持っており、現実の厳しさから逃れることのできない人間の姿を象徴しています。