フォークナーのアブサロム、アブサロム!を面白く読む方法
語り手の視点に注目する
「アブサロム、アブサロム!」は、複数の語り手によって語られる複雑な物語構造を持つ小説です。語り手によって視点や解釈が異なり、それぞれが独自の真実を語っている点が特徴です。
例えば、クウェンティンは、父親や祖父から聞かされた断片的な情報を元に、想像力を駆使してサトペンの過去を再構成しようとします。一方、ローザは、サトペン家に翻弄された自身の経験に基づき、彼らに対して憎悪にも似た感情を抱いています。
それぞれの語り手の視点の違いを意識しながら読むことで、物語の裏に隠された真実や登場人物たちの複雑な心理が見えてきます。誰が、いつ、なぜ、どのように語っているのかを意識することで、断片的な情報がパズルのように組み合わさり、より深い理解へと繋がっていきます。
南部ゴシックの文脈を理解する
フォークナーの作品は、アメリカ南部の歴史や文化、社会問題を色濃く反映した「南部ゴシック」と呼ばれるジャンルに属します。
「アブサロム、アブサロム!」では、南北戦争後の南部の衰退、奴隷制の負の遺産、人種差別、階級社会といったテーマが、サトペン家の悲劇的な運命を通して描かれています。これらのテーマは、現代社会にも通じる普遍的な問題意識を提起しています。
当時の南部の歴史や社会背景について事前に調べておくことで、作品世界への理解が深まります。フォークナーの作品には、南部の風土や文化、人々の暮らしぶりが生々しく描写されており、まるで当時の南部にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。
時間軸を意識して読む
「アブサロム、アブサロム!」は、過去と現在が複雑に交錯する物語構成となっています。 サトペン家の栄光と没落の歴史が、断片的に語られるため、時系列を追って理解するのが難しい作品です。
しかし、それぞれの場面がどの時代設定で語られているのかを意識することで、物語の全体像が見えてきます。 ノートに年表や家系図を作成しながら読むのも有効な方法です。
時間軸を行き来しながら、サトペン家の過去と現在、そして語り手たちの現在がどのように繋がっているのかを読み解くことで、物語の深みが増していきます。
登場人物の関係性を整理する
「アブサロム、アブサロム!」には、サトペン家を中心に、多くの登場人物が登場します。 その複雑な血縁関係や人間関係を把握することが、物語理解の鍵となります。
家系図を作成したり、登場人物の相関図を作ったりすることで、複雑な人間関係を整理しながら読み進めることができます。 登場人物たちの関係性が明らかになるにつれて、サトペン家を襲った悲劇の根源が見えてきます。
繰り返し登場するモチーフに注目する
フォークナーの作品には、特定のモチーフや象徴が繰り返し登場します。「アブサロム、アブサロム!」においても、家父長制、血統、土地、時間といったモチーフが、様々な形で描かれています。
例えば、サトペン家の創始者であるトーマス・サトペンの執念は、家父長制の象徴として描かれています。また、土地は、サトペン家の栄光と衰退、そして南部の歴史そのものを象徴しています。
これらのモチーフが、作品全体を通してどのように描かれているのか、それぞれの場面でどのような意味を持っているのかを考えることで、より深く作品を理解することができます。
自分のペースで楽しむ
「アブサロム、アブサロム!」は、決して読みやすい作品ではありません。 しかし、難解さの中にこそ、フォークナー作品の最大の魅力が秘められています。
最初から全てを理解しようとせず、まずは自分のペースで読み進めてみましょう。 途中で行き詰まったら、解説書や他の読者の感想を参考にしたり、時間を置いてから読み返すのも良いでしょう。
じっくりと時間をかけて、フォークナーの作り出した重厚な世界観に浸ってください。