## フォークナーのアブサロム、アブサロム！の比喩表現
比喩表現1：時間と記憶の絡み合い
フォークナーの作品全体、特に『アブサロム、アブサロム！』において、時間と記憶は直線的ではなく、むしろ循環的で重層的なものとして描かれます。これは、過去の出来事が現在に影響を与え続け、現在から過去を振り返ることで新たな解釈が生まれることを示唆しています。
例えば、物語は登場人物たちの断片的な記憶や語りによって進行し、時系列が前後することで読者はパズルのように情報を組み立てていくことになります。これは、過去が固定されたものではなく、語り手によって再構築される流動的なものであることを示唆しています。また、同じ出来事が異なる語り手によって異なる視点から語られることで、多角的な解釈が提示されます。
特に、物語の中心となるサートリス家の歴史は、南北戦争や奴隷制といった過去の傷跡と密接に関係しており、登場人物たちはその影を引きずりながら生きています。彼らの記憶は、過去のトラウマや秘密によって歪められ、現在における行動や人間関係に影響を与えています。
比喩表現2：南部の衰退と崩壊
『アブサロム、アブサロム！』は、南北戦争後の南部の衰退と崩壊を象徴的に描き出しています。かつては栄華を誇ったサートリス家の没落は、そのまま南部の凋落を象徴するものであり、その様は、様々な比喩表現を用いて描かれています。
例えば、サートリス家の壮大な屋敷である「サットリス・エンド」は、物語が進むにつれて荒廃していく様子が描かれます。かつては富と権力の象徴であった屋敷は、今では廃墟と化しており、過去の栄光が失われたことを如実に物語っています。
また、トーマス・サットリスが建設した「彼の帝国」も、彼の死後崩壊へと向かっていきます。これは、南部の伝統的な価値観や社会構造が、時代の流れとともに崩壊していく様を象徴的に示しています。
さらに、登場人物たちの複雑な人間関係や愛憎劇も、南部の複雑な歴史や社会構造を反映していると言えるでしょう。人種差別、階級社会、家族間の確執といった問題は、南部の歴史と深く結びついており、登場人物たちの行動や心理に大きな影響を与えています。