## フォークナーの「アブサロム、アブサロム！」の表象
時間
「アブサロム、アブサロム！」における時間は直線的ではなく、過去、現在、未来が複雑に交錯する。物語は断片的な回想や語り手の主観を交えながら、サトペン家の歴史を紐解いていく。読者は、登場人物たちと共に、時間の迷宮を彷徨いながら、真実に迫ろうとする。
語り
本作は、ローザ・コールドフィールド、クウェンティン・コンプソン、そのルームメイトのシュリーヴなど、複数の語り手によって語られる。それぞれの語り手は、独自の視点や解釈に基づいてサトペン家の物語を語るため、読者は一つの出来事に対しても多様な解釈を突きつけられる。語り手たちの主観や偏見が、物語に複雑さと深みを与えている。
家族
「アブサロム、アブサロム！」の中心には、サトペン家という崩壊した家族の姿がある。トーマス・サトペンによる一族の創設と、その後の没落は、奴隷制、人種差別、近親相姦など、南部の負の歴史を象徴している。サトペン家の悲劇は、過去が現在に暗い影を落とす様を如実に示している。
歴史
本作は、単なる家族の物語ではなく、アメリカ南部の歴史そのものを描いている。南北戦争と奴隷解放は、サトペン家の運命を大きく左右する。登場人物たちは、過去の遺物である偏見や差別と向き合いながら、新たな時代を生きていかなければならない。
人種
「アブサロム、アブサロム！」における人種問題は、単なる社会的背景ではなく、物語の根幹を成す重要なテーマである。トーマス・サトペンの黒人との間に生まれたチャールズ・ボンは、その出自ゆえに悲劇的な運命をたどる。人種差別がもたらす憎しみと暴力は、サトペン家を崩壊へと導く一因となる。
記憶
「アブサロム、アブサロム！」は、記憶の不確かさと、それが歴史認識に及ぼす影響を問いかける。登場人物たちは、過去の出来事を断片的にしか知ることができず、それぞれの解釈に基づいて記憶を再構築していく。真実が常に明らかになるわけではなく、記憶の曖昧さゆえに物語は謎に包まれたままとなる。