## フォークナーの「アブサロム、アブサロム!」と人間
「アブサロム、アブサロム!」における人間の複雑さ
ウィリアム・フォークナーの小説「アブサロム、アブサロム!」は、19世紀のアメリカ南部を舞台に、トマス・サトペンという野心的な男とその家族の興亡を描いています。この作品は、人間の複雑な心理、社会における人種や階級の役割、過去が現在に及ぼす影響など、多岐にわたるテーマを探求しています。
語りを通して浮かび上がる人間の真実
「アブサロム、アブサロム!」の特徴の一つに、複数の語り手を用いた複雑な物語構成があります。クエンティン・コンプソン、ローザ・コールドフィールド、シュリーヴ・マッキャノンといった語り手たちは、それぞれ独自の視点や解釈でサトペンの物語を語ります。彼らの断片的な記憶や主観的な視点を重ね合わせることで、読者はサトペン家の真実、そして人間の真実へと迫っていきます。
歴史と記憶の曖昧な関係
フォークナーはこの作品を通して、歴史と記憶の曖昧な関係を浮き彫りにしています。サトペン家の物語は、南北戦争や奴隷制といった歴史的背景と密接に関係していますが、その真実は語り手の主観や時間の経過によって歪められ、謎に包まれています。読者は、語り手たちの言葉を手がかりに、歴史の断片を拾い集め、自分自身で解釈していくことを求められます。
愛と憎しみ、欲望と喪失
「アブサロム、アブサロム!」は、愛と憎しみ、欲望と喪失といった普遍的な人間の感情を描いています。トマス・サトペンは、成功への執念と家族への歪んだ愛情に突き動かされ、悲劇的な結末を迎えます。彼の息子ヘンリーは、異母兄弟チャールズ・ボンとの禁断の愛と葛藤に苦しみ、破滅へと向かいます。登場人物たちの複雑な感情の絡み合いは、人間の心の闇を描き出すと同時に、愛を求める人間の業を描いています。