フィリップスの政治の論理の翻訳
政治の論理の翻訳について
政治思想史において重要な古典とされるC.B. マクファーソン編『所有の政治理論:ロックからミルの時代』に収録されているC.B. フィリップス「政治の論理」は、所有と政治の関係を考察する上で欠かせない論考です。本稿では、これまでに入手可能な日本語訳を比較検討し、翻訳の観点から問題点を指摘します。
「Civil Society」の訳語について
まず、この論考の理解に重要な「civil society」の訳語について検討します。既存の翻訳では、「市民社会」と訳されている場合と、「文明社会」と訳されている場合があります。「市民社会」は現代の市民社会論と結びつけやすく、歴史的な文脈における意味とのずれが生じる可能性があります。一方、「文明社会」は当時のイギリス社会における文化的、道徳的な側面を強調する訳語として理解できますが、フィリップスの論旨における「政治的な」側面との関連性が薄れてしまう可能性があります。
所有と政治の関係性の表現について
次に、フィリップスの論考の中心テーマである所有と政治の関係性について、その表現の仕方に注目します。フィリップスは、所有が政治的な力とどのように結びついているのかを論じています。既存の翻訳では、「所有が政治に影響を与える」といった表現で訳されている場合がありますが、フィリップスの主張は、所有そのものが政治的な権力構造と不可分に結びついているという点にあります。そのため、「所有は政治的なものである」といった、より強い表現で訳す必要があると考えられます。
歴史的文脈への配慮
最後に、フィリップスの論考を理解する上で、当時の歴史的文脈への配慮が不可欠です。フィリップスは、17世紀のイギリス革命期の思想や社会状況を背景に、所有と政治の関係性を論じています。そのため、翻訳においても、当時の歴史的文脈を理解した上で、適切な訳語を選択する必要があります。例えば、フィリップスが言及する「the people」を現代的な意味での「国民」と訳してしまうと、当時の社会状況における「人民」という意味合いが失われてしまう可能性があります。