ピレンヌのベルギー史に影響を与えた本
フュステル・ド・クーランジュ著「古代都市」の影響
アンリ・ピレンヌは、20世紀初頭のベルギーを代表する歴史家の一人であり、その学問的業績は多岐にわたりますが、特に高く評価されているのが中世都市史の分野です。ピレンヌは、従来の政治史中心の見方に対し、経済活動や社会構造に着目することで、中世都市の起源と発展を解き明かそうとしました。
ピレンヌの学問形成において、大きな影響を与えた人物の一人に、フランスの歴史家、ニュマ・ドニ・フュステル・ド・クーランジュが挙げられます。クーランジュは、19世紀後半に活躍した歴史家で、古代ギリシャ・ローマ社会に関する研究で大きな功績を残しました。彼は、文献史料の批判的な読解と、比較法を用いることで、古代社会の構造を解明しようと試みました。
クーランジュの主著である『古代都市』は、1864年に出版され、古代ギリシャ・ローマにおける都市国家の起源と発展を、政治、経済、宗教、社会など様々な側面から分析した画期的な著作です。この本の中でクーランジュは、古代都市を、宗教的紐帯と政治的な自治によって結びついた市民共同体として捉え、その独自性を強調しました。
ピレンヌは、クーランジュの著作から多大な影響を受け、特に以下の点が挙げられます。
* **文献史料の批判的読解の重視**: クーランジュは、一次史料を批判的に分析することの重要性を強調しました。ピレンヌは、この方法論を受け継ぎ、中世都市に関する史料を注意深く読み解くことで、従来の通説に疑問を呈し、独自の学説を構築しました。
* **社会構造への関心**: クーランジュは、古代都市を単なる政治的単位としてではなく、独自の社会構造を持つ共同体として捉えました。ピレンヌもまた、中世都市を、商人や職人といった市民層が独自の社会経済システムを築き上げた場として捉え、その内部構造の解明に力を注ぎました。
* **比較史的方法**: クーランジュは、古代ギリシャとローマの都市を比較分析することで、それぞれの都市国家の特質を明らかにしようとしました。ピレンヌもまた、様々な地域の中世都市を比較研究することで、都市発展の共通項と地域性を明らかにしようとしました。
ピレンヌは、クーランジュの学問的方法を継承しつつ、それを中世都市史の研究に応用することで、独自の学問体系を築き上げました。ピレンヌの代表作である『中世都市の歴史』は、クーランジュの『古代都市』の影響を色濃く受けたものであり、両著は、都市史研究における記念碑的な著作として、今日でも高く評価されています。