ピレンヌのベルギー史が扱う社会問題
言語問題
ピレンヌは、ベルギーの歴史を語る上で、フランス語系住民とフラマン語系住民の対立という言語問題がいかに根深く、そして国家統合を阻む要因となってきたかを詳細に描き出しています。
中世から続くこの対立構造は、近代国家ベルギーが成立した後も、政治、経済、文化など様々な面で社会的分断を生み出しました。ピレンヌは、それぞれの言語集団が独自のアイデンティティを形成し、異なる文化を育んできた歴史的背景を踏まえ、その葛藤と融和の過程を克明に記しています。
経済格差
ピレンヌは、ベルギーにおける経済発展の不均衡がもたらす社会問題にも着目しています。産業革命以降、工業地帯として発展した南部ワロン地域と、農業中心であった北部フランドル地域との間には、経済的な格差が生まれました。
この経済格差は、言語問題とも複雑に絡み合い、社会不安や政治対立を激化させる要因となりました。ピレンヌは、経済格差がもたらす社会の歪みや、地域間の不平等が国家統合を脅かす側面を指摘しています。
宗教対立
ベルギー社会におけるカトリックとプロテスタントの対立も、ピレンヌが取り上げる重要な社会問題の一つです。歴史的にカトリックの影響が強かったベルギーにおいて、16世紀にプロテスタントが勃興すると、両者の間で激しい対立が生じました。
ピレンヌは、宗教対立が政治や社会構造に深く根付いていたことを示し、それが国民統合を阻害する要因の一つとなったことを指摘しています。近代ベルギーにおいても、教育問題などを巡って宗教対立が再燃し、社会に大きな影響を与えました。