ピグーの厚生経済学から学ぶ時代性
ピグーの主張とその時代背景
アーサー・セシル・ピグーは、20世紀初頭のイギリスを代表する経済学者の一人であり、その主著『厚生経済学』(1920年) は、政府による積極的な介入によって経済の効率性と社会の公平性を高めるべきだとする、当時の社会改革思想を色濃く反映したものでした。
ピグーが生きた時代は、イギリスがヴィクトリア朝からエドワード朝へと移り変わる激動の時代でした。産業革命の進展は、大量生産、大量消費、都市化、そして貧富の格差の拡大といった社会問題を引き起こし、人々の価値観や社会構造に大きな変化をもたらしました。このような時代背景の中、ピグーは、政府が適切な政策を実施することで、市場メカニズムだけでは解決できない社会問題を解決できると考えました。
外部経済効果と政府の役割
ピグーの厚生経済学の中心的な概念は、「外部経済効果」です。これは、ある経済主体の活動が、市場を通じて媒介されることなく、他の経済主体の厚生に影響を与える現象を指します。例えば、工場の排煙による大気汚染は、周辺住民の健康被害という負の外部経済効果をもたらします。
ピグーは、市場メカニズムだけでは外部経済効果を適切に internalize することができないため、政府が介入し、課税や補助金などの政策によって外部経済効果を是正する必要があると主張しました。例えば、環境汚染を引き起こす企業に対しては、汚染物質の排出量に応じて課税することで、企業の行動を是正し、環境保護を促進できると考えました。
ピグーの思想的背景:功利主義と社会改良主義
ピグーの厚生経済学は、ジェレミー・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルなどの思想家によって提唱された功利主義の考え方に強く影響を受けています。功利主義は、「最大多数の最大幸福」を道徳の基準とし、政府は社会全体の幸福を最大化するように行動すべきだとする考え方です。ピグーもまた、政府は社会全体の厚生を向上させるために積極的に介入すべきだと考えました。
また、ピグーは、当時のイギリスで広がりつつあった社会改良主義の思想にも共鳴していました。社会改良主義は、貧困、労働問題、教育などの社会問題を解決するために、政府が積極的に介入すべきだとする考え方です。ピグーは、政府の介入によって社会の不平等を是正し、すべての人々に機会均等が保障されるべきだと考えました。
現代社会への示唆
ピグーの厚生経済学は、現代社会においても重要な示唆を与えてくれます。地球温暖化、貧富の格差の拡大、情報技術の進歩など、現代社会は様々な課題に直面しており、ピグーが重視した政府の役割はますます重要になっています。
ピグーの思想は、市場メカニズムの限界を認識し、政府が積極的に社会問題の解決に取り組むことの重要性を改めて認識させてくれます。