ヒルファーディングの金融資本論に影響を与えた本
マルクス『資本論』
ルドルフ・ヒルファーディングの主著『金融資本論』(1910年)は、カール・マルクスの経済学説、とりわけ『資本論』から多大な影響を受けています。ヒルファーディング自身、本書が「マルクスの研究の補足」であると述べているように、『資本論』はヒルファーディングの思考の基盤をなしており、『金融資本論』を理解する上で欠かせない一冊と言えるでしょう。
まず、『資本論』で展開された資本主義経済の分析枠組みは、『金融資本論』においても重要な役割を果たしています。マルクスは、『資本論』の中で、資本主義経済を、剰余価値の生産と実現を軸として、貨幣-商品-貨幣’(M-C-M’)という資本循環の観点から分析しました。ヒルファーディングは、このマルクスの分析枠組みを継承し、信用制度の発達と独占資本の形成という新たな歴史的段階における資本主義経済の分析を試みています。
具体的には、ヒルファーディングは、信用制度の発達によって、産業資本と銀行資本が相互に浸透し、金融資本が形成される過程を分析しました。銀行は、預金という形で社会の遊休資本を集め、それを企業への貸し出しという形で産業資本に供給します。一方、産業資本は、銀行からの融資によって事業を拡大し、利潤を上げます。このように、金融資本は、銀行と企業の相互依存関係を通じて、資本主義経済全体に大きな影響力を持つようになります。
また、ヒルファーディングは、金融資本の形成と独占資本の発展との関連性についても分析しています。彼は、金融資本が巨大化し、集中していく過程で、銀行と企業が相互に株式を持ち合うようになり、やがて少数の巨大企業グループが経済全体を支配するようになると主張しました。そして、この巨大企業グループによる経済支配こそが、帝国主義の経済的基盤であると結論づけました。
このように、『金融資本論』は、マルクスの『資本論』を理論的な出発点として、20世紀初頭の資本主義経済における新たな現象であった金融資本と独占資本、そして帝国主義の関連性を分析した画期的な著作です。ヒルファーディングは、『資本論』で提示された資本主義経済の基本的な分析枠組みを踏まえつつ、信用制度の発達と独占資本の形成という新たな要素を組み込むことで、マルクス経済学の現代への展開を試みたと言えるでしょう。