ヒルティの幸福論の関連著作
**アリストテレス『ニコマコス倫理学』**
古代ギリシャの哲学者アリストテレスによる倫理学の古典です。『幸福論』同様、人間の幸福について深く考察し、その実現のための具体的な指針を示しています。アリストテレスは、幸福とは「魂の能力に従って働き、それを一生涯持続すること」であると定義し、徳の涵養や理性的な生活の重要性を説いています。
特に、『幸福論』でヒルティが説く「義務の遂行」は、アリストテレスの「徳倫理」における中庸の徳とも深く関連しています。どちらも、単なる快楽の追求ではなく、理性に基づいた行動や社会的な責任を果たすことを通じて真の幸福が得られるという考えを示唆しています。
**エピクテトス『エンケリディオン』**
ローマ時代のストア派哲学者エピクテトスの思想をまとめた書です。ストア派は、理性に従って生きることを重視し、外部の出来事にとらわれず、心の平安を保つことを説きました。
ヒルティはストア派の思想に大きな影響を受けており、『幸福論』においても、自分の力ではどうにもならないことに対する心の持ち方や、欲望を制御することの重要性を説いています。エピクテトスの「我々に属するものと属さないものを見分ける」という教えは、ヒルティの幸福論における「諦念」の概念と共通する部分が見られます。
**イマヌエル・カント『道徳形而上学』**
18世紀ドイツの哲学者イマヌエル・カントの主著の一つです。カントは、人間の理性に基づいた普遍的な道徳法則の存在を主張し、「善意志」と「義務」を重視しました。
ヒルティはカントの道徳哲学に共鳴しており、『幸福論』においても、義務を果たすことこそが人間の尊厳に合致し、真の幸福に繋がるという考えを表明しています。カントの「定言命法」は、個人の幸福よりも普遍的な道徳法則を優先するという点で、ヒルティの「義務の遂行」の概念と共通点を持っています。
これらの古典は、時代や文化を超えて人間の幸福について考察した重要な著作です。『幸福論』と比較検討することで、より深くヒルティの思想を理解することができます。