ヒルティの幸福論に影響を与えた本
ショーペンハウアー『人生論』の影響
ヒルティの『幸福論』は、多くの示唆に富んだ内容を含み、多くの人々に影響を与えた自己啓発書として知られています。その思想的背景には、19世紀ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーの主著『人生論』の影響を見て取ることができます。
ショーペンハウアーは、人生は苦しみと退屈の繰り返しであるという、一見すると悲観的な世界観を展開しました。彼は、人間の根源的な欲求である「意志」が、常に満たされることのない渇望を生み出し、それが苦しみの根源となると考えたのです。そして、この苦しみから逃れるためには、意志の否定、すなわち禁欲的な生き方を選ぶことが重要であると説きました。
ヒルティはショーペンハウアーの思想を直接的に引用しているわけではありませんが、『幸福論』において展開される幸福論には、ショーペンハウアーの影響が色濃く反映されています。
例えば、ヒルティは幸福を「快楽や満足の連続」とは定義せず、「人生のあらゆる苦難を克服し、自己を完成させていく過程」と捉えています。これは、ショーペンハウアーが説いた、意志の否定による苦しみからの解放という考え方に通じるものと言えるでしょう。
また、ヒルティは幸福を得るために必要な要素として、「質素な生活」「勤勉」「自己の内面への向き合い」などを挙げていますが、これらの要素もまた、ショーペンハウアーの思想と深く関連しています。ショーペンハウアーは、物質的な欲望を満たすことに執着せず、精神的な充足を求めることの重要性を説いていましたが、これはヒルティの幸福論における「質素な生活」や「自己の内面への向き合い」といった概念と重なります。
さらに、ヒルティは「勤勉」を幸福の重要な要素として強調していますが、これはショーペンハウアーが「意志の否定」を実現するための手段として重視した「自己鍛錬」の概念と結びついています。ショーペンハウアーは、絶え間ない努力と自己鍛錬を通してのみ、意志の支配から解放され、真の幸福に近づけると考えていました。
このように、ヒルティの『幸福論』は、ショーペンハウアーの『人生論』から多大な影響を受けていることがわかります。ショーペンハウアーの思想を背景に、『幸福論』は、苦しみと困難に満ちた人生を力強く生き抜き、真の幸福を追求するための指針を示そうとしたと言えるでしょう。