## ヒルティの幸福論が扱う社会問題
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物質主義と幸福の関係
ヒルティは、当時のヨーロッパ社会において広がりつつあった物質主義に警鐘を鳴らしています。産業革命を経て経済が発展する一方で、人々の間には物質的な豊かさの追求が幸福に直結するという考え方が蔓延していました。ヒルティは、このような風潮に対し、真の幸福は物質的な豊かさだけでは得られないと説きます。
彼は、物質的な豊かさを追い求めるあまり、心の豊かさや精神的な満足感を軽視してしまうことを危惧していました。所有欲や競争心にとらわれ、他人との比較に苦しむ人々の姿は、現代社会にも通じるものがあります。ヒルティは、真の幸福を追求するためには、物質的な価値観から離れ、心の豊かさに目を向けることの重要性を説いています。
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競争社会と心の疲弊
ヒルティは、競争社会がもたらす心の疲弊にも目を向けています。社会が発展し、人々の生活が豊かになるにつれて、競争はますます激化しました。地位や名誉、経済的な成功を求めて、人々は熾烈な競争にさらされます。ヒルティは、このような競争社会の中で、多くの人々が心に大きな負担を抱えていることを懸念していました。
彼は、競争に勝ち抜くことだけに価値を置くのではなく、他人との協力や共存の重要性を説いています。また、常に競争にさらされることで生じる心の疲労を癒すためには、自然と触れ合ったり、芸術に親しんだり、自分自身と向き合う時間を持つことが大切であると説いています。
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個人主義と共同体の希薄化
ヒルティは、個人主義の台頭が共同体の絆を希薄化させていることにも警鐘を鳴らしています。近代社会において、個人の権利や自由が尊重される一方で、人々の間の繋がりは希薄になっていきました。ヒルティは、個人主義が行き過ぎると、人々は孤立し、孤独感を深めてしまうと懸念していました。
彼は、真の幸福は、他人との繋がりや社会への貢献を通してこそ得られると説いています。利己的な欲望を満たすことよりも、他者を思いやり、共に助け合い、社会に貢献することこそが、人間らしい生き方であり、幸福に繋がる道であるとヒルティは考えていました。