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パーフィットの理由と人格の対称性

## パーフィットの理由と人格の対称性

非対称的な事例と対称性の主張

デレク・パーフィットは、著書『理由と人格』の中で、道徳と合理性に関する従来の見方を揺るがすような議論を展開しました。彼は特に、自身の将来の自己に対する現時点での自己の関係性に焦点を当て、「人格的な非連続性の事例」を通じて、伝統的な「自己関与の原則」や「功利主義」といった倫理理論が抱える問題点を指摘しました。

パーフィットが提示する非対称的な事例とは、例えば次のようなものです。

* **事例1:** 過去の自分が犯した過ちを現在自分が恥ずかしく思う場合。過去の自己と現在の自己は心理的に連続しているにも関わらず、私たちは過去の自分の行為に対して道徳的な責任を負うように感じます。
* **事例2:** 将来、認知症を患い、人格が大きく変化することが分かっている場合。現在の自己は将来の自己に対して、現在の価値観や希望に基づいた行動を求めますが、将来の自己は現在の自己とは異なる人格を持ち、異なる価値観を持つ可能性があります。

これらの事例は、時間的に異なる時点における自己の関係が、必ずしも対称的ではないことを示しています。私たちは過去の自己に対しては責任を感じますが、将来の自己に対しては同様の責任を感じない場合があります。

パーフィットの対称性の主張

しかし、パーフィットはこれらの非対称的な事例を提示しながらも、「理由と人格」の間には根本的な対称性が存在すると主張します。彼は、時間的に異なる時点における自己の関係は、心理的な連続性や同一性によって決定されるのではなく、「繋がり」(connectedness)の度合いに依存すると論じます。

パーフィットによれば、「繋がり」とは、記憶、信念、欲求、性格といった心理的な要素が、時間経過とともに重なり合いながら継続していく様を指します。そして、この「繋がり」の強さに応じて、私たちは過去の自己や将来の自己に対して、異なる度合いで関心を持ち、責任を感じ、配慮する必要があると主張します。

例えば、過去の自己が犯した過ちを現在自分が恥ずかしく思う場合、過去の自己と現在の自己の間には強い「繋がり」が存在するため、私たちは過去の行為に対して責任を感じます。一方で、認知症によって人格が大きく変化する場合、将来の自己との「繋がり」は弱くなり、現在の自己の価値観や希望を押し付けることは正当化されなくなります。

対称性の含み

パーフィットの対称性の主張は、従来の倫理理論における「自己」の概念を問い直し、時間的に異なる時点における自己の関係をより柔軟かつ現実的に捉え直すことを促します。彼の議論は、自己責任、将来世代への義務、個人的アイデンティティなど、倫理学の根本的な問題に新たな光を当てるものです。

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