パーフィットの理由と人格の対極
パーフィットの還元主義に対抗する立場
デレク・パーフィットの『理由と人格』(Reasons and Persons, 1984)は、人格のメタフィジクス、個人的同一性、理性と道徳の関係を探求し、還元主義的な視点から人間のアイデンティティを解きほぐそうとする野心的な試みです。パーフィットは、私たちの直感に反して、個人の同一性は時間とともに持続する実体ではなく、心理的な連続性と繋がりの複雑な束に還元されると主張します。
人格の統一性を擁護する立場
パーフィットの還元主義的な見解に対抗する立場として、人格の統一性を擁護する伝統があります。この伝統は、アリストテレスにまで遡ることができ、トマス・アクィナスやジョン・ロックなどの思想家によって発展してきました。
アリストテレスは、『ニコマコス倫理学』の中で、人間には、理性、感情、欲望など、さまざまな能力があると論じています。これらの能力は、すべて単一の統合された主体、つまり人格によって統合されているとアリストテレスは主張します。
実体としての自己
ロックは、人格は「意識、特に思考や行為における意識である限りにおいて、自己に対するそれ自身の同一性と同一であるもの」であると主張しました。ロックにとって、記憶と思想の連続性は、時間の経過とともに人格の同一性を維持する上で中心的な役割を果たします。
現象学的アプローチ
20世紀には、エドムント・フッサールやモーリス・メルロー=ポンティなどの現象学者が、人間の主体性の経験的かつ全体的な理解を強調し、自己の統一性のより微妙な概念を提供しました。
関係性の中での自己
近年では、関係性の中での自己の概念が、パーフィットの個人主義的な見解に対する重要な対抗馬として浮上しています。この視点によれば、自己は孤立した実体として存在するのではなく、他者、コミュニティ、共有された経験との関係の中で形作られます。
これらの対抗馬は、パーフィットの還元主義的な見解に挑戦し、人格の統一性、自己の継続性、人間の経験における関係性と物語の重要性を強調する多様な視点を提供しています。