## パーフィットの理由と人格の力
デレク・パーフィットと「理由と人格」
デレク・パーフィットは、1942年生まれのイギリスの哲学者です。オックスフォード大学で学び、長年教鞭をとった後、2017年に亡くなりました。倫理学、形而上学、心の哲学の分野において多大な影響を与え、特に1984年に出版された著書「理由と人格」は、現代倫理学における古典とされています。
「理由と人格」の概要
「理由と人格」は、道徳と合理性、自己と同一性という深遠な問題に取り組んだ、非常に複雑で野心的な著作です。パーフィットは、従来の倫理学の枠組みを根本から問い直し、人間のアイデンティティと、私たちが人生に意味を見出す方法について、新たな視点を提示しました。
パーフィットの功利主義批判と非帰結主義
パーフィットは、従来の功利主義の考え方に対して、いくつかの重要な批判を展開しています。彼は、功利主義が、個人の権利や特別な義務を十分に考慮に入れていないと主張し、その代わりに、より包括的な倫理理論を構築しようと試みました。パーフィットは、特定の行為の結果だけでなく、その行為を生み出した動機や原則にも目を向けるべきだと主張しました。これは、非帰結主義と呼ばれる立場です。
自己の還元主義的見解と「分裂した脳」の思考実験
パーフィットは、自己を、経験や心理的繋がりの連続体として捉える「還元主義的見解」を提示しました。彼は、自己が、不変で単一の実体ではなく、時間とともに変化しうる、様々な要素の集合体であると主張しました。この考え方を説明するために、パーフィットは、「分裂した脳」の思考実験を用いています。この思考実験では、脳の左右の半球が外科的に分離され、それぞれが独立して機能できるようになった場合、私たちが「一人」の人間であり続けることができるのか、という問題を提起します。この思考実験を通じて、パーフィットは、自己の統一性という概念に疑問を投げかけ、私たちの直感的な自己理解に挑戦しました。
パーフィットの議論の影響
「理由と人格」は、出版以来、哲学界に大きな影響を与え、自己の性質、道徳的責任、人生の意味など、倫理学における重要な問題についての議論を活発化させました。パーフィットの著作は、その後の倫理学、形而上学、心の哲学の研究に多大な影響を与え続けています。