パーフィットの理由と人格の世界
パーフィットの還元主義
デレク・パーフィットは、著書「理由と人格」の中で、人間のアイデンティティと人格の概念について、還元主義的な見解を提示しています。パーフィットによれば、私たちは、過去の経験、現在の状態、そして未来への展望によって構成される、時間的に拡張された存在です。彼は、自我や魂のような、時間的に不変な実体としての「私」という考えを否定します。
心理的連結性と連続性
パーフィットは、人間のアイデンティティを支える基盤として、「心理的連結性」と「心理的連続性」という二つの概念を導入します。心理的連結性とは、ある時点における精神状態と、それ以前の時点における精神状態との間の、直接的な心理的つながりのことです。記憶、信念、欲求、性格などは、心理的連結性を構成する要素の一部です。
一方、心理的連続性は、時間的に離れた二つの時点における精神状態間の、間接的なつながりを指します。心理的連続性は、一連の心理的連結性によって成り立ちます。パーフィットは、完全な心理的連続性は現実には存在しないとし、ある程度の断絶や変化は避けられないと主張します。
人格の非同一性
パーフィットは、心理的連結性と連続性の度合いによって、人格の同一性が変化すると考えます。彼は、時間経過に伴う心理的な変化が大きければ大きいほど、その人物は以前の自分とは異なる人格を持つようになると主張します。
例えば、ある人物が深刻な事故や病気によって、過去の記憶や性格の大部分を失ってしまった場合、その人物はもはや以前の自分と同じ人格であるとは言えないかもしれません。パーフィットは、このようなケースにおいて、人格の同一性は失われると結論づけています。