パーフィットの理由と人格に影響を与えた本
影響を与えた本:理由と人格
デレク・パーフィットは、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍したイギリスの哲学者です。その著作は、倫理哲学、形而上学、心の哲学、理性に関する哲学など、幅広い分野に多大な影響を与えました。特に、1984年に出版された『理由と人格』は、パーフィットの代表作として知られており、個人同一性、理性、倫理に関する従来の考え方に見直しを迫る画期的な著作として位置づけられています。
理由と人格:パーフィットの思想の核心
『理由と人格』は、人間の同一性、道徳、理性という一見異なるテーマを、自己利益という概念を通して結びつけようとする意欲的な試みです。パーフィットは、私たちが一般的に考えているような、時間を通じて持続する単一の、不変の自己というものは存在しない、と主張します。その代わりに、彼は「還元主義的」な自己観を提示し、私たちは経験の連続体であり、時間を通じて変化し続ける、複雑な心理的つながりのネットワークに過ぎないと論じます。
自己の非実体性と倫理への影響
この自己の非実体的ともいえる見解は、私たちが倫理的な決定を下す方法に大きな影響を与えます。パーフィットによれば、もし私たちが時間の経過とともに根本的に異なる存在であるならば、将来の自己に対する現在の自己の義務は、私たちが伝統的に考えているほど明確ではありません。彼は、将来の自己に対する私たちの義務は、友人や家族などの他者に対する義務と本質的に変わらないことを論じます。すなわち、それは、私たちが現在、どれだけの心理的なつながりを彼らと共有しているか、そしてそのつながりが将来、どれほど強くなるかによって左右されるのです。
パーフィットの挑戦:伝統的な倫理観の見直し
パーフィットのこの主張は、私たちの倫理的な直感の多くに挑戦状を突きつけます。例えば、私たちは通常、将来の自己に対して、現在の自己が犯した過ちを償う義務があると信じています。しかし、パーフィットの分析によれば、将来の自己が現在の自己と心理的に十分に異なっている場合、そのような義務は存在しない可能性があります。
自己利益の再定義:倫理への新たな視座
さらにパーフィットは、自己利益の概念そのものにも疑問を呈します。彼は、自己利益が単にすべての瞬間の欲求を満たすことであると考えるのは誤りであると主張します。むしろ、真の自己利益は、人生におけるさまざまな瞬間の欲求間の複雑な関係を考慮に入れるべきであり、その関係は、私たち自身の心理的なつながりと、将来の自己に対する私たちの義務の理解によって形作られるべきなのです。
結論
『理由と人格』は、パーフィットの哲学の中核となるテーマを探求する上で欠かせない著作です。それは、私たちが自己、倫理、理性についてどのように考えるかを根本的に問い直し、現代の哲学に大きな影響を与えました。彼の提唱する還元主義的な自己観と、それに伴う倫理への影響は、私たちが自分自身と世界との関係を理解する上で、新たな視点を提供してくれるものです。