パムクの私の名は赤の力
力について
「私の名は赤」では、力という概念が様々な形で現れます。
まず、オスマン帝国時代のミニチュア画家たちの間における、絵の技量という力があげられます。 師であるオスマンの「様式」を模倣することで、画家たちは工房内で一定の地位を築き、 名声を得ていました。 しかし、その一方で、絵の技量を競い合うあまり、 画家たちは互いに嫉妬し、疑心暗鬼に陥っていきます。 特に、黒と呼ばれる謎の人物は、 西洋画の影響を受けた新しい様式を密かに工房にもたらそうとし、 伝統的な様式を守ることに固執する他の画家たちと対立します。
また、権力者による力の行使も描かれています。 皇帝ムラト三世は、 自身の肖像画を描くことを禁じることで、 自らの権威を絶対的なものとしようとしています。 彼は、 絵画が持つ力を恐れており、 自分の肖像画が描かれることで、 その力が弱まることを恐れているのです。
さらに、愛と欲望も、 作中では力として描かれています。 黒は、 美しいシェキュレに恋をし、 彼女のために命を懸けることさえ厭いません。 シェキュレもまた、 黒に惹かれながらも、 身分違いの恋に苦悩します。 彼らの愛は、 周りの人間を巻き込み、 悲劇的な結末へと向かっていきます。
このように、「私の名は赤」では、 力というものが、 様々なレベルで複雑に絡み合いながら、 物語が展開されていきます。