パムクの私の名は赤と時間
時間に対する登場人物たちの意識
作中では、登場人物たちがそれぞれの視点から時間を意識する場面が随所に見られます。絵師たちは、伝統的な様式の中で永遠とも言える時間を過ごしてきた自負を持つ一方で、西洋の影響を受けた新しい画法の前に、自分たちの時間が終わりを迎えるかもしれないという不安を抱えています。
物語と時間の重層構造
物語は、殺害された絵師の視点を含む、複数の登場人物の一人称によって語られます。それぞれの語り手は、過去の出来事を回想したり、現在進行形で事件について考察したりすることで、時間の流れを複雑に交錯させていきます。これは、過去、現在、未来が線形に進むのではなく、重層的に存在することを示唆していると考えられます。
ミニアチュール画と時間
イスラム美術を代表するミニアチュール画は、西洋絵画のような写実性を重視せず、象徴性や装飾性を重視します。これは、ミニアチュール画が時間を超越した永遠の価値観や物語を描こうとする試みであると解釈できます。作中で、絵師たちが新しい画法と伝統的な様式の間で葛藤する様子は、変化する時間と、時間を超越しようとする試みの対比として描かれていると言えるでしょう。