バルザックの幻滅の原点
現実と理想の乖離
バルザックは1799年、フランス革命後の混乱期に生まれました。激動の時代を生き、社会の矛盾や人間の欲望を目の当たりにした経験が、彼の文学の根底には常に存在しています。「幻滅」も例外ではなく、そこに描かれる理想と現実の乖離は、バルザック自身の体験に基づいたものであると考えられています。
地方とパリの対比
「幻滅」は、主人公リュシアンが、故郷の地方都市から芸術家として成功することを夢見てパリへ上京する物語です。しかし、そこで彼を待ち受けていたのは、純粋な芸術の世界ではなく、名声や金、権力に翻弄される人々の姿でした。バルザック自身も、南フランスの出身で、弁護士を目指してパリへ行きながら、文学の道へと進んだ経験を持っています。リュシアンが経験する地方とパリのギャップは、バルザック自身の経験と重なる部分が多いと言えるでしょう。
出版業界の現実
「幻滅」では、当時の出版業界の裏側が赤裸々に描かれています。金のために魂を売る作家、ゴシップ記事や扇動的な作品で利益を追求する新聞社など、文学が商業主義に染まっていく様子が活写されています。バルザック自身も、多くの作品を発表する中で、出版社や批評家との関係に苦悩した経験を持っていました。「幻滅」に描かれる出版業界の腐敗は、バルザックが実際に目にした現実を反映していると言えるでしょう。