バルザックのゴリオ爺さんとアートとの関係
### ゴリオ爺さんにおける芸術の欠如
まず注目すべきは、「ゴリオ爺さん」には芸術作品そのものや芸術家が主要な登場人物として登場しないことです。これは、バルザックが芸術を軽視していたわけではなく、むしろ当時の社会における芸術の役割に対する批評的な視点を反映しています。
### 物質主義と虚栄心の象徴としての芸術品
作中で芸術は、主にヴォートラン夫妻やレストー夫人といった上流階級の人々の虚栄心を満たすための道具として描かれています。彼女らは高価な衣服や宝石、豪奢な家具を身に着け、華やかな社交界に出入りすることで、自らの社会的地位を誇示しようとします。
例えば、レストー夫人は、ゴリオ爺さんの娘であるデルフィーヌに高価なダイヤモンドのネックレスを贈ることで、彼女を自分の所有物のように扱おうとします。このネックレスは、愛や友情の証ではなく、あくまでも彼女の虚栄心を満たし、社会的地位を誇示するための道具として機能しています。
### 芸術の退廃と道徳の退廃の対比
バルザックは、「ゴリオ爺さん」の中で、当時のフランス社会における道徳の退廃を描いています。金銭欲や出世欲に目がくらんだ人々は、他人を蹴落とし、利用し、裏切ることさえ厭いません。
このような道徳の退廃は、芸術の領域にも及んでいます。上流階級の人々は、芸術を真に理解し、愛しているわけではなく、単なるステータスシンボルとして捉えているに過ぎません。
ゴリオ爺さんの悲劇は、彼が娘たちに純粋な愛情を注ぎながらも、結局は彼女たちの金銭欲と社会的地位への執着によって裏切られてしまう点にあります。これは、当時の社会における人間関係の歪み、そして金銭が支配する社会の冷酷さを象徴しています。