## バルザックの「幻滅」の思考の枠組み
社会の構造と人間の欲望
「幻滅」は、復讐、野心、愛、芸術など、さまざまな人間の欲望が渦巻く19世紀前半のフランス社会を舞台としています。バルザックは、当時の社会構造を、貴族社会の没落、ブルジョワジーの台頭、そして大衆社会の出現という大きな転換期として捉え、それぞれの階層に属する人々の欲望が複雑に絡み合い、衝突する様子を克明に描いています。
特に注目すべきは、金銭欲と権力欲が支配的な力を持つブルジョワジーの台頭です。バルザックは、彼らが伝統的な価値観や道徳を軽視し、利益を追求することに執着する姿を冷徹な筆致で描いています。
地方とパリの対比
「幻滅」は、主人公リュシアンが純粋さや理想を抱いて地方からパリへと上京し、そこで社会の現実と人間の醜さに直面していく物語でもあります。バルザックは、地方とパリという対比を用いることで、当時のフランス社会における価値観の対立を浮き彫りにしています。
地方は、伝統的な価値観や道徳が残る場所として描かれる一方で、閉鎖的で息苦しい面も持ち合わせています。一方、パリは、自由と成功への夢を叶える場所として描かれる一方で、欲望が渦巻く混沌とした場所としても描かれています。
メディアの力と影響力
「幻滅」では、新聞や出版などのメディアが大きな影響力を持つようになり、人々の価値観や行動を左右する様子が描かれています。バルザックは、メディアが金銭や権力によって容易に操作され、真実が歪められる可能性を鋭く指摘しています。
リュシアンは、ジャーナリストとして成功を夢見てパリに上京しますが、そこでメディア業界の腐敗に巻き込まれていきます。彼は、自分の才能や理想を捨て、金銭や名声のために魂を売ることを強要されます。
愛と野心の葛藤
「幻滅」は、主人公リュシアンが、純粋な愛と世俗的な野心の間で葛藤する様子を描いた Bildungsroman（教養小説）としても読むことができます。彼は、上京当初は純粋な愛を貫こうとしますが、パリの社交界で成功するためには、愛を捨てて野心に生きることを選択せざるを得ないと悟ります。
バルザックは、愛と野心の対立を通して、人間存在の本質的な矛盾や苦悩を描き出しています。