## バルザックの「幻滅」の思想的背景
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フランス革命と復古王政
バルザックは1799年生まれであり、フランス革命とその後の激動の時代を直接経験した世代ではありません。しかし、革命の熱狂と挫折、そして復古王政下における社会の不安定さは、バルザックの思想形成に大きな影響を与えました。革命によって貴族社会が崩壊し、能力主義に基づいた社会が到来するかに見えましたが、現実には新たな格差や社会矛盾が生まれました。バルザックは、自身の作品の中で、こうした社会の矛盾や人々の欲望、野心を鋭く描き出しています。「幻滅」においても、主人公リュシアンの挫折を通して、当時のフランス社会が抱える問題を浮き彫りにしています。
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ロマン主義とリアリズム
バルザックは、19世紀前半にフランスで流行したロマン主義文学の影響を受けながらも、その理想主義的な側面に反発し、現実社会を冷徹な目で描写するリアリズムの先駆者となりました。ロマン主義が個人の感情や主観を重視したのに対し、リアリズムは客観的な観察に基づいた社会や人間の描写を重視しました。
バルザックは、「人間喜劇」と題した壮大な小説群の中で、当時のフランス社会のあらゆる階層の人々を描き出すことで、人間の本質や社会の真実を明らかにしようとしました。「幻滅」もまた、リュシアンという一人の青年を通して、当時の社会における成功と挫折、愛と裏切り、理想と現実のギャップなどを赤裸々に描いています。