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バジョットのイギリス憲政論の光と影

バジョットのイギリス憲政論の光と影

バジョットのイギリス憲政論における光

バジョットの『イギリス憲政論』(1867年)は、イギリス憲法の慣習と実態を詳細に分析し、19世紀後半のイギリスにおける古典的な憲法論として、今日に至るまで高く評価されています。彼の洞察力は、イギリス憲法の特質を理解する上で多くの示唆を与えてくれます。

まずバジョットは、「尊厳的部分」と「効率的部分」という二分法を用いてイギリス憲法を分析しました。 「尊厳的部分」は、国民の政治参加への意欲を高め、政治体制への忠誠心を醸成する役割を担う君主制や貴族院などを指します。一方、「効率的部分」は、内閣や議会など、実際に政治を運営する機関を指します。バジョットは、イギリス憲法の成功の秘訣は、この二つの部分が調和を保っている点にあると主張しました。

さらにバジョットは、イギリス憲法における「内閣の優越」を明確に論じた点でも高く評価されています。彼は、内閣が議会に対して責任を負い、国民の意思を政治に反映させる役割を担っていることを強調しました。これは、当時のイギリスにおける議会政治の成熟度を如実に示すものであり、バジョットの洞察力の鋭さを物語っています。

バジョットのイギリス憲政論における影

バジョットの『イギリス憲政論』は、イギリス憲法の実態を鋭く描写した古典的名著として知られていますが、その一方で、時代的な限界や批判的な視点から見ると、いくつかの「影」の部分も指摘されています。

まず、バジョットの分析は、19世紀後半のイギリス政治の安定と繁栄を前提としており、20世紀以降に起こる社会構造の変化や政治体制の変容を十分に予見できていませんでした。例えば、政党政治の発展や大衆民主主義の進展、そしてEU加盟といった歴史的変化は、バジョットの想定を超えたものであり、彼の理論だけでは説明できない側面も存在します。

また、バジョットはイギリス憲法の「効率性」を重視するあまり、その「民主性」や「代表性」に関する議論が不足しているという指摘もあります。 彼は、国民の政治参加を「尊厳的部分」の役割に限定しており、議会や内閣における国民の代表性を十分に論じていません。この点は、現代の民主主義理論の観点からすると、大きな欠点として捉えられる可能性があります。

さらに、バジョットの理論は、イギリス特有の歴史的・文化的背景に強く依存しており、他の国々の政治体制にそのまま適用することは難しいという側面もあります。 彼の分析は、イギリスにおける立憲君主制や議会政治の伝統、そして国民性といった要素を抜きにしては理解できません。

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