バジョットのイギリス憲政論と人間
バジョットのイギリス憲政論における「人間」観
ウォルター・バジョットの『イギリス憲政論』（1867年）は、イギリス憲法の構造と機能を分析した古典的名著です。バジョットは、憲法を成文法典ではなく、歴史的に形成された慣習や制度、そしてそれらを運用する「人間」の行動様式として捉えました。彼の分析においては、「人間」に対する深い洞察が重要な役割を果たしています。
人間の「尊厳」と「理性」への信頼
バジョットは、人間を「尊厳」を持つ存在として捉え、その「理性」による判断能力を高く評価していました。彼は、国民一人ひとりが政治に参加し、自らの意思に基づいて代表者を選び、政府を監視することの重要性を説きました。これは、当時のイギリス社会における階級制度や特権意識を背景に、画期的な考え方でした。
人間の「欠点」への自覚
一方で、バジョットは人間の「欠点」についても冷静に認識していました。彼は、人間が利己心や権力欲に駆られやすく、誤った判断を下す可能性も十分にあることを認識していました。そのため、彼は権力の集中を避け、チェック・アンド・バランスの原則に基づいた政治体制の必要性を説きました。
「人間の集合」としての社会
バジョットは、社会を単なる個人の集合体ではなく、「人間の集合」としての有機的な統一体として捉えました。彼は、個人と社会の関係を重視し、個人の自由と権利を保障することと同時に、社会全体の秩序と安定を維持することの重要性を説きました。
「現実主義」に基づいた人間理解
バジョットの人間観は、「理想主義」や「性悪説」に偏ることなく、「現実主義」に基づいたバランスの取れたものでした。彼は、人間の「可能性」と「限界」を冷静に見据え、現実の政治状況の中で実現可能な制度設計を目指しました。
「経験」と「歴史」を重視
バジョットは、抽象的な理論よりも、具体的な「経験」と「歴史」に基づいた政治分析を重視しました。彼は、イギリス憲法を長年の歴史の中で試行錯誤を経て形成された「知恵の結晶」とみなし、その伝統と慣習を尊重する姿勢を強調しました。