ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題の対極
ハーバーマスの主張と対極
まず、ハーバーマスが「後期資本主義における正当化の諸問題」で何を主張したかを明確にする必要があります。ハーバーマスは、高度に発展した資本主義社会において、システム(経済や政治)が自己維持のために生活世界(文化やコミュニケーション)を植食し、その結果、人々の価値観や規範が損なわれ、社会の統合が危機に瀕していると主張しました。彼は、この危機を克服するためには、コミュニケーション的理性に基づいた公共圏の再構築が必要であると論じました。
対極になりうる思想
ハーバーマスのこの主張と対極に位置する思想は、一筋縄ではいきません。彼の問題意識は多岐にわたり、そのすべてを否定するような思想は容易には見当たらないからです。
しかし、あえていくつかの対立軸を設定し、その軸上に位置する思想を検討することで、ハーバーマスの主張に対する「対極」となりうるものを探ってみましょう。
システムの優位性を主張する思想
ハーバーマスは、システムの自己拡張が生活世界を侵食すると批判しましたが、逆に、システムの優位性を主張する思想は「対極」となりえます。
例えば、フリードリヒ・ハイエクなどの新自由主義思想は、市場メカニズムの効率性と個人の自由を重視し、国家による介入を最小限に抑えるべきだと主張します。彼らは、ハーバーマスが危惧するようなシステムの肥大化は、むしろ個人の自由と経済発展にとって不可欠であると考えるでしょう。
コミュニケーションの役割を軽視する思想
ハーバーマスは、コミュニケーション的理性による公共圏の再構築を重視しましたが、逆に、コミュニケーションの役割を軽視する思想も「対極」になりえます。
例えば、カール・シュミットなどの政治 realism は、政治を friend と enemy の区別によって規定されるものと捉え、理性的な議論よりも、決断と権力を重視します。彼らは、ハーバーマスが期待するようなコミュニケーションによる合意形成は、政治においては幻想に過ぎないと考えるでしょう。
重要な注意点
ただし、ここで挙げた思想は、あくまでハーバーマスの主張の一部の側面との対比において「対極」となりうる可能性を示唆したに過ぎません。これらの思想が、ハーバーマスの問題意識全体を包括的に否定するものであるとは限りませんし、それぞれの思想内部にも多様な解釈や立場が存在することに留意する必要があります。