ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題
ハーバーマスにおける後期資本主義の定義とは
ハーバーマスは、後期資本主義を、高度に発展した資本主義社会の段階として捉えています。彼の分析では、第二次世界大戦後の西側諸国に見られるような、資本主義は単なる経済体制ではなく、政治、文化、社会のあらゆる側面に浸透したシステムとして理解されています。特に、国家の介入による経済の安定化、大量消費社会の出現、福祉国家の発展といった特徴が挙げられます。
後期資本主義における「正当化の諸問題」とは何か
ハーバーマスは、後期資本主義における「正当化の諸問題」を、システムが自己を正当化するためのメカニズムが、システム自体が引き起こす問題によって脅かされている状態と定義します。
具体的には、以下の点が挙げられます。
* **経済的効率性と社会的平等の間の緊張:** 資本主義は、経済成長と効率性を重視する一方で、貧富の格差や社会的不平等を生み出す傾向があります。
* **個人の自由とシステムの要請との間の葛藤:** 大量消費社会では、個人の自由は、消費を通して自己実現を促す形で奨励されますが、同時に、システムの円滑な運用に不可欠な労働力として、個人はシステムに組み込まれることを要求されます。
* **公共圏の衰退:** 政治的意思決定のプロセスが、経済的な力関係や官僚機構の影響下に置かれ、市民による自由な議論と合意形成に基づく公共圏が衰退していく状況。
ハーバーマスは「正当化の諸問題」にどのように対処しようとしているのか
ハーバーマスは、「正当化の諸問題」に対する解決策として、「コミュニケーション的理性」に基づく公共圏の再構築を提唱します。
* **コミュニケーション的理性:** これは、権力や利害関係から自由な対話を通じて、参加者全員が納得できる共通の理解と合意を形成していく理想的なコミュニケーションの姿を指します。
* **公共圏の再構築:** 市民が自由に意見を交換し、政治的意思決定に影響を与えることができる場としての公共圏を再構築することで、システムの正当性を回復できるとハーバーマスは考えます。
ハーバーマスは、社会運動や市民運動といった、システムの外部から批判的な視点を持ち込む主体に期待を寄せています。これらの主体が、コミュニケーション的理性に基づく公共圏を活性化することで、後期資本主義の抱える「正当化の諸問題」を克服し、より公正で民主的な社会の実現を目指せると彼は主張しています。