## ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題とアートとの関係
ハーバーマスの「システム」と「生活世界」
ハーバーマスは、後期資本主義社会を分析する上で、「システム」と「生活世界」という二つの概念を用います。
「システム」は、経済や政治といった社会の物質的再生産を担う領域であり、効率性や合理性を重視します。一方、「生活世界」は、文化やコミュニケーション、相互理解といった、人々の日常生活が営まれる領域を指します。
近代化による「生活世界」の植民地化
ハーバーマスは、後期資本主義においては、「システム」の論理が「生活世界」に浸透し、「植民地化」すると主張します。
例えば、教育や医療といった本来は「生活世界」に属する領域が、効率性や競争を重視する「システム」の論理に支配され、人間的な価値や相互理解が軽視されるようになると指摘します。
アートの持つ「コミュニケーションの可能性」
ハーバーマスは、このような「生活世界」の植民地化に対抗する可能性の一つとして、アートに注目します。
アートは、既存の価値観や権力構造にとらわれず、人間の感性や感情に直接訴えかける力を持っています。そのため、システム化された言語では表現できないような、人間の根源的な問題や社会の矛盾を浮かび上がらせることができます。
「美的経験」を通じた「批判的理性」の活性化
ハーバーマスは、アートの持つこの力を「コミュニケーションの可能性」と呼びます。アート作品に触れる「美的経験」を通して、人々は既存の価値観や社会規範に疑問を抱き、批判的な思考を育むことができます。
このように、ハーバーマスは、アートが「システム」の論理に侵食された「生活世界」を回復し、「コミュニケーション的理性」に基づく民主的な社会を構築する上で重要な役割を果たすと考えました。