## ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題が扱う社会問題
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システムと生活世界の植民地化
ハーバーマスは、後期資本主義社会において、経済や国家といった「システム」が、文化や人格形成、道徳といった「生活世界」に侵入し、その自律性を脅かしているという問題を指摘しています。
具体的には、市場メカニズムや官僚制の論理が、教育、家族、コミュニケーションといった生活世界の領域にまで浸透し、本来、相互理解や合意形成に基づいて行われるべき意思決定や価値判断を、効率性や計算可能性といったシステムの論理で支配しようとします。
この「システムによる生活世界の植民地化」は、以下のような社会問題を引き起こします。
* **文化の画一化と陳腐化:** 市場メカニズムは、人々のニーズを画一的な消費対象へと還元し、大衆文化の蔓延を通じて、多様で個性的な文化を衰退させる。
* **コミュニケーションの貧困化:** 効率性や成果主義が優先されることで、人々の間での真摯な対話や共感に基づくコミュニケーションが軽視され、人間関係の希薄化や社会的な孤立が進行する。
* **政治的無関心と公共性の衰退:** 複雑化した社会システムの運営は、専門家や官僚に委ねられ、市民は政治から疎外され、公共的な事柄への関心を失っていく。
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動機づけの危機
システムの論理が生活世界を支配するようになると、人々は、経済的な成功や社会的な地位といった外的な報酬によってのみ動機づけられるようになり、内発的な倫理や道徳に基づいて行動することが困難になります。
この「動機づけの危機」は、以下のような社会問題を招きます。
* **共同体の崩壊:** 人々は、利害関係に基づいた関係のみを重視するようになり、伝統的な共同体や家族といった、感情的な絆や相互扶助によって成り立っていた共同体の紐帯は弱体化する。
* **規範の空洞化:** 人々は、内面的な倫理に基づいて行動するのではなく、外部からの強制や罰則によってのみ規範に従うようになり、社会全体の道徳意識が低下する。
* **アイデンティティの危機:** 市場メカニズムの中で、個人は消費活動を通じて自己実現を図ろうとするが、真のアイデンティティを見出すことができず、空虚感や疎外感を抱えることになる。
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コミュニケーション的理性の可能性
このようなシステムの論理が支配的な社会状況に対して、ハーバーマスは、コミュニケーション的理性に基づく公共圏の再構築を通じて、システムの論理を抑制し、生活世界の自律性を回復することの重要性を訴えます。
コミュニケーション的理性とは、権力や金銭ではなく、自由で平等な対話を通じて、互いの主張の妥当性を吟味し、合意形成を目指す理性のことです。
ハーバーマスは、現代社会においても、家族や友人関係、市民運動、NPO活動など、コミュニケーション的理性が機能する生活世界の領域は残されており、これらの領域を基盤として、公共圏を再構築していくことが可能だと考えています。
そして、公共圏において、市民が積極的に政治に参加し、社会問題について議論し、合意形成を図っていくことによって、システムの暴走を抑制し、より公正で人間的な社会を実現することができると主張します。