## ハートの法の概念と言語
ハートの法概念
H.L.A. ハート（1907-1992）は、20世紀を代表する法哲学者の一人であり、その主著『法の概念』(1961) は、現代法哲学の古典とされています。ハートは、同書において、法を「一次規則」と「二次規則」という二つの種類の規則からなる体系として捉えることで、法の概念を説明しようと試みました。
一次規則と二次規則
一次規則とは、個人の行動を直接的に規制する規則です。例えば、殺人や窃盗を禁じる刑法の規定や、契約の締結や履行を定める民法の規定などが、一次規則にあたります。
二次規則とは、一次規則を制定、変更、適用、または識別するための規則であり、一次規則に対して上位のレベルで作用します。ハートは、二次規則をさらに以下の三つの種類に分類しました。
* **承認の規則**: ある社会において、どの規則が法として有効であるかを決定する規則です。例えば、日本では、国会で制定された法律が法として承認されます。
* **変更の規則**: 法を制定したり、変更したりするための規則です。例えば、法律の制定手続きを定めた日本国憲法などが、変更の規則にあたります。
* **裁定の規則**: 法の解釈や適用に関する紛争を解決するための規則です。例えば、裁判所の組織や権限を定めた裁判所法などが、裁定の規則にあたります。
社会構造における一次規則と二次規則
ハートは、一次規則のみが存在する社会は、原始的で未発達な社会であると述べています。なぜなら、そのような社会では、法が不明確で、変化に対応することが難しく、紛争の解決も効率的に行えないからです。一方、二次規則が存在することで、法は明確になり、変化に対応できるようになり、紛争の解決も効率的に行えるようになると考えました。
法と言語
ハートは、法と言語の関係についても分析を行いました。彼は、法は言語によって表現され、伝達されるものであるため、法を理解するためには、言語の分析が不可欠であると論じました。
内部視点と外部視点
ハートは、法規則に対して、それを義務として受け入れている「内部視点」と、単なる事実としての観察を行う「外部視点」の二つがあると指摘しました。内部視点は、法に従うことを当然だと考える社会成員の視点であり、外部視点は、法体系を客観的に分析する観察者の視点です。
ハートの法概念は、現代法哲学においても重要な影響を与え続けており、法の性質や機能について考える上での基本的な枠組みを提供しています。