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ハンティントンの文明の衝突の思想的背景

ハンティントンの文明の衝突の思想的背景

1. 冷戦後の世界秩序とアイデンティティの変容

ハンティントンは、冷戦終結後の世界において、イデオロギー対立に代わって文明間の対立が主要な対立軸になると主張しました。これは、冷戦期の二極化という単純な枠組みが崩壊し、世界がより複雑で多様な様相を呈するようになったという認識に基づいています。彼は、冷戦期には抑圧されていた民族主義や宗教といった文化的なアイデンティティが、冷戦後の世界においては人々を結びつける主要な要素として再び台頭してくると考えました。

2. 西洋近代化論への批判

ハンティントンの主張は、西洋文明の普遍性を前提とした近代化論への批判としても解釈できます。近代化論は、すべての社会が西洋型の近代化の過程を辿ると想定していましたが、ハンティントンは、世界には西洋文明とは異なる歴史や文化を持つ文明が存在し、それらの文明は必ずしも西洋型の近代化を受け入れるとは限らないと主張しました。

3. 歴史観と文明の定義

ハンティントンは、歴史を文明間の相互作用と対立として捉えており、特に西洋文明とそれ以外の文明との間の関係に焦点を当てています。彼は文明を、「言語、歴史、宗教、慣習、制度、そして人々の自己認識の主観的な要素によって定義される、最も広範な文化的実体」と定義しました。そして、世界には大きく分けて、西洋、儒教(中華)、日本、イスラーム、ヒンドゥー、スラヴ・正教、ラテンアメリカ、そしておそらくアフリカの8つの主要な文明が存在するとしました。

4. 文明の特徴と境界線

ハンティントンによれば、各文明はそれぞれ異なる歴史的経験、価値観、世界観を持っており、それらは容易に変化することはありません。また、彼は文明間の境界線は、文化的な差異が最も顕著に現れる地域であり、紛争が発生しやすい地帯であると主張しました。彼は特に、西洋文明とイスラーム文明の境界線における紛争の可能性を強調し、「断層線戦争」という概念を提唱しました。

5. 国際関係における文明の役割

ハンティントンは、国際関係において文明は、協力と対立の双方において重要な役割を果たすと考えました。彼は、同じ文明に属する国家は、共通の文化的な基盤を持つため、互いに協力しやすいと主張しました。一方で、異なる文明に属する国家は、価値観や世界観の相違から、対立が生じやすいと指摘しました。

これらの要素が、ハンティントンの「文明の衝突」という議論の基盤となっています。 彼の主張は、冷戦後の世界を理解するための新たな枠組みとして注目を集めると同時に、その文明を過度に単純化し、対立を煽るものであるとして多くの批判も浴びました。

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