ハロッドの動態経済学序説を読んだ後に読むべき本
ジョーン・ロビンソン著「資本蓄積論」
ハロッドの『動態経済学序説』は、巨視経済分析に動学を導入した先駆的な業績であり、その後の経済成長と景気循環の研究に多大な影響を与えました。 特に、均衡成長経路からの逸脱が累積的に増大する「ナイフエッジ定理」は、資本主義経済の不安定性を示唆するものとして、多くの経済学者に衝撃を与えました。
ハロッドの動態分析をより深く理解し、その後の展開を追う上で、ジョーン・ロビンソンの『資本蓄積論』は最適な一冊と言えるでしょう。ロビンソンは、ケインズ経済学の忠実な継承者として、ハロッドの理論を発展させ、資本主義経済における成長と分配の問題を体系的に分析しました。
本書は、六つの部と計25章から構成されています。第一部「導入」では、古典派経済学における価値と分配の理論を批判的に検討し、ケインズ経済学の立場から、需要、投資、貯蓄の関係を中心に据えた分析の枠組みを提示します。続く第二部「技術、蓄積および利潤率」では、資本蓄積率と利潤率の関係を分析し、技術進歩と賃金水準が利潤率に及ぼす影響を明らかにします。
第三部「資本の価値」では、資本財の価値を測定する問題を取り上げ、従来の限界生産力説の問題点を指摘します。第四部「蓄積の諸類型」では、資本蓄積率と利潤率の関係に基づき、資本主義経済における様々な成長パターンを分析します。第五部「黄金時代の凋落」では、完全雇用を伴う均衡成長が実現する条件を検討し、現実の資本主義経済では、様々な要因によって均衡が崩れやすいことを論じます。そして、最終部「国際貿易」では、国際貿易が国内経済の成長と分配に与える影響を分析しています。
ロビンソンの分析は、数学的に洗練されたものでありながら、現実の経済問題に対する鋭い洞察に満ちています。特に、資本蓄積、所得分配、技術進歩の相互作用を分析し、資本主義経済における成長のダイナミズムと不安定性を明らかにした点は、現代経済学においても重要な示唆を与えてくれます。
『資本蓄積論』は、決して読みやすい本ではありません。 しかし、ハロッドの動態分析をより深く理解し、その後のマクロ経済学、特に成長理論の展開をたどる上で、避けて通れない重要な著作です。粘り強く読み進めることで、資本主義経済のダイナミズムと矛盾に関する深い洞察を得ることができるでしょう。