## ハロッドの動態経済学序説の対極
ヨーゼフ・シュンペーターの「経済発展の理論」
ロイ・F・ハロッドの『動態経済学序説』(1939年)は、経済成長の分析に数学的モデルを導入した先駆的な著作として知られています。この著作は、ケインズの静的な経済理論を動学化し、均衡成長経路からの逸脱と、それがもたらす景気循環の可能性について分析した点で画期的でした。
一方で、ハロッドの分析は、経済成長の要因を抽象的な資本蓄積率や人口増加率に求めるきらいがありました。これに対して、オーストリア学派の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、1912年に発表した主著『経済発展の理論』の中で、経済成長の源泉はイノベーションを生み出す「企業家」であると主張しました。
シュンペーターは、経済を静的な均衡状態ではなく、絶え間ない変化と創造的破壊のプロセスとして捉えました。彼の理論において、企業家は新製品の開発、新技術の導入、新しい生産方法の採用、新しい市場の開拓などを通じて、既存の経済構造を打破し、新たな価値を生み出す原動力となります。
シュンペーターの「企業家精神」は、ハロッドのモデルにおける外生的な技術進歩とは異なり、経済システム内部から生み出される動的な力として位置づけられます。また、シュンペーターは、イノベーションが一時的な独占利潤を生み出し、それが模倣者を引き寄せ、最終的には新たな均衡状態へと至る過程を重視しました。
このように、経済成長に対するアプローチにおいて、ハロッドの『動態経済学序説』とシュンペーターの『経済発展の理論』は対照的な視点を与えています。ハロッドがマクロ経済的な均衡条件と成長経路の安定性に焦点を当てたのに対し、シュンペーターはミクロ経済的な主体である企業家の役割とイノベーションのダイナミズムを強調しました。