## ハロッドの動態経済学序説から学ぶ時代性
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不確実性と均衡探求のジレンマ:戦間期経済学の影
ハロッドの『動態経済学序説』が出版された1939年は、世界恐慌の傷跡が生々しく、第二次世界大戦の足音が聞こえ始めた時代でした。古典派経済学が前提としていた完全競争や完全予見は、現実経済の不確実性と大きく乖離していました。ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』で有効需要の原理を唱え、政府の積極的な介入を訴えたのも、このような時代背景があったからです。
ハロッドもまた、ケインズと同様に、現実経済における不確実性と不安定性を強く意識していました。彼は、投資決定が企業家のアニマルスピリットに大きく左右され、それが経済の不安定性を増幅させるメカニズムを分析しました。この点において、ハロッドの動態経済学は、戦間期の不安定な時代背景を色濃く反映していると言えるでしょう。
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成長と均衡の両立:戦後復興への希望と課題
一方で、『動態経済学序説』は、単に不安定な現実を描写しただけではありません。ハロッドは、経済が均衡成長経路を辿るためには、投資、貯蓄、生産能力の増加率が一定の関係を満たす必要があることを明らかにしました。
これは「保証成長率」として知られる概念であり、経済が安定的に成長するための条件を示した点で、戦後の経済復興への希望を提示するものと言えます。同時に、ハロッドは、現実の経済が保証成長率を達成することは非常に困難であるとも指摘しました。
なぜなら、投資は将来の予測に基づいて行われるため、常に不確実性に晒されているからです。このジレンマは、戦後の経済政策において、完全雇用と物価安定の両立を目指すことの難しさとして、現実のものとなりました。
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現代経済学への継承と発展:持続可能な成長への模索
ハロッドの動態経済学は、その後の経済学に多大な影響を与えました。特に、彼の不均衡動学の視点は、新ケインジアンやポスト・ケインジアンといった現代の経済学派に受け継がれ、発展を遂げています。
例えば、経済における情報の非対称性や制度的要因を重視する現代の経済学は、ハロッドが重視した不確実性と密接に関連しています。また、近年注目されている持続可能な成長というテーマも、経済成長と資源制約、環境問題とのバランスをどのように取るのかという点において、ハロッドの提起した課題と通底する部分があります。