## ノージックのアナーキー・国家・ユートピアの光と影
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光:最小国家論の緻密な論理と個人主義の擁護
ノージックは、国家の正当性を最小限の国家、すなわち個人の権利を保護することに限定された国家のみに認めました。これは、個人の権利を最大限に尊重するリバタリアニズムの立場から、国家の介入を最小限に抑えようとするものです。
彼の議論は、ロックの自然権論を基礎に、個人が生まれながらにして持つ権利を論理的に積み重ねていくことで、最小国家の正当性を導き出そうとしました。特に、個人の権利を侵害することなく、いかにして国家が成立しうるのかを説明するために、自然状態から最小国家への移行を「目に見えない手」によって説明した点は、独創的な試みとして評価されています。
また、ノージックは、分配の正義について、結果の平等ではなく、手続きの公正を重視する「エンタイトルメント理論」を提唱しました。これは、個人が正当な手続きを経て所有物を取得・譲渡する限り、その結果は問われないという考え方です。この理論は、個人の自由と責任を重視し、福祉国家的な再分配政策に反対する論拠として提示されました。
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影:現実への適用可能性と理論の限界
ノージックの最小国家論は、その論理の緻密さにもかかわらず、現実への適用可能性に疑問が呈されています。例えば、彼の理論では、警察、裁判所、国防といった機能に限定された国家を想定していますが、現実の国家は、教育、福祉、インフラ整備など、より広範な機能を担っています。ノージックは、これらの機能を民間部門に委ねることが可能であると主張しますが、現実的には困難な側面も少なくありません。
また、ノージックの理論は、出発点における資源配分の不平等を問題視していません。エンタイトルメント理論では、過去の正当な取得・譲渡の結果として生じた所有は正当化されますが、歴史的に見て、多くの不平等は暴力や搾取によって生み出されてきました。ノージック自身もこの問題を認識しており、過去の不正義を是正するための補償の必要性を認めていますが、具体的な方策については明確な答えを示していません。
さらに、ノージックの個人主義的な立場は、共同体や社会的な絆を軽視しているという批判もあります。彼は、個人が自らの権利を最大限に追求することを重視するあまり、社会全体の利益や共通善への配慮が欠けているという指摘です。