## ノージックの「アナーキー・国家・ユートピア」の思想的背景
ノージックの『アナーキー、国家、ユートピア』(1974年) は、20世紀後半の政治哲学、特にリバタリアニズムの思想に多大な影響を与えた書物です。この著作を理解する上で、その思想的背景を考察することは非常に重要です。
ロックと古典的自由主義の伝統
ノージックの思想は、ジョン・ロックに代表される古典的自由主義の伝統に深く根ざしています。ロックは、人間は生まれながらにして生命、自由、財産に対する自然権を有しており、いかなる政府もこれらの権利を侵害することはできないと主張しました。ノージックもまた、個人は不可侵の権利を持っており、国家の役割はこれらの権利を保護することに限定されるべきだと考えていました。
カントの影響:個人を目的として扱うこと
ノージックの思想には、イマヌエル・カントの道徳哲学の影響も色濃く見られます。カントは、人間はそれ自体として目的であり、決して手段として扱われてはならないと主張しました。ノージックは、カントのこの考え方を政治哲学に適用し、国家は個人の権利を最大化するために個人の自由を制限することを正当化できないと論じました。
功利主義への批判
ノージックは、功利主義の思想、特にその分配的正義の概念を厳しく批判しました。功利主義は、社会全体の幸福を最大化することを目指し、そのために個人の権利を制限することを正当化することがあります。ノージックは、功利主義は個人の権利を軽視し、個人が単なる社会全体の幸福のための手段として扱われる可能性があると主張しました。
エンタイトルメント理論
ノージックは、正義로운 分配を説明するために、独自の「エンタイトルメント理論」を展開しました。この理論は、個人が正当に所有物を取得し、譲渡するための原則を定めています。ノージックによれば、所有物の初期取得、自由な交換、不当な取得の是正という3つの原則に基づいて所有物が分配されている限り、その分配は正義であるとされます。
最小国家論
これらの思想に基づき、ノージックは最小国家論を擁護しました。最小国家とは、個人の権利を保護することに限定された機能を持つ国家です。ノージックは、警察、裁判所、国防といった機能を持つ最小国家は正当化されるものの、福祉国家のように個人の自由を侵害するような国家は正当化できないと主張しました。
これらの思想的背景を理解することで、ノージックの『アナーキー、国家、ユートピア』における主張や論理展開をより深く理解することができます。