## ノイマンの大衆国家と独裁の周辺
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フランツ・ノイマンについて
フランツ・ノイマン(Franz Leopold Neumann, 1900-1954)は、ドイツ生まれの政治学者・法学者です。フランクフルト大学で法学を学び、1920年代後半には社会民主党の法律顧問を務めました。ナチスの台頭を経験し、1933年にイギリスへ亡命。その後、アメリカに移住し、コロンビア大学などで教鞭を執りました。
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ノイマンの主要著作
ノイマンの主要著作には、『ビーレフェルト―権力支配と社会的統合の研究』(1930)、『ベヘモス―ナチズムの構造と実践』(1942)、『民主主義と独裁の経済と社会』(1951)などがあります。『ベヘモス』は、ナチス体制の分析を通じて全体主義の構造を解明した古典的名著として知られています。
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『ベヘモス』における議論
『ベヘモス』においてノイマンは、ナチス体制を「非国家的な支配の形態」、すなわち従来の国家論では捉えきれない、新たな支配形態として分析しました。彼はナチス体制を、党官僚、軍部、産業界といった複数の権力集団が相互に浸透・抗争しながら支配を維持する、不安定で無秩序な体制と捉えました。また、ナチス体制下では、国家は特定の階級の利益を代表するのではなく、むしろ社会全体の利益を代表すると称して、あらゆる社会集団をその支配下に組み込もうとする点に特徴があると指摘しました。
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ノイマンと他の全体主義論
ノイマンの全体主義論は、ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』などの他の全体主義論と比較されることがあります。アーレントが全体主義体制を、イデオロギーと恐怖によって大衆を動員し、社会全体を原子化することで支配を確立するシステムとして捉えているのに対し、ノイマンは、全体主義体制の不安定さや無秩序さに着目し、支配エリート間の抗争や妥協の重要性を強調している点が特徴です。
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ノイマンの思想の現代的意義
現代社会においても、国家と社会の関係は複雑化しており、従来の国家論では捉えきれない現象が多く見られます。ノイマンの思想は、現代の全体主義や権威主義体制、ポピュリズムの台頭を分析する上でも示唆に富む視点を与えてくれます。