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ニーチェの道徳の系譜の関連著作

ニーチェの道徳の系譜の関連著作

ショーペンハウアー著「意志と表象としての世界」

ショーペンハウアーの主著である「意志と表象としての世界」は、ニーチェの思想に大きな影響を与えた作品として知られています。特に、世界の本質を「意志」と捉え、その盲目的な衝動こそが苦悩の根源であるとする思想は、ニーチェの道徳批判の基礎となる重要な概念を提供しました。

ショーペンハウアーは、世界を認識する私たちの能力は、あくまでも「表象」のレベルに留まり、真の世界の在り方である「物自体」を捉えることはできないと主張します。そして、その不可知な「物自体」こそが、盲目的で非合理的な「意志」であると結論づけます。この「意志」は、絶え間ない欲望と欠乏感に駆られており、その充足は一時的なものでしかなく、すぐに新たな欲望へと駆り立てられます。ショーペンハウアーは、この「意志」の無限の循環こそが、苦悩の根本原因であると見なしました。

ニーチェは、ショーペンハウアーのこの思想を深く受け止め、自身の道徳批判へと展開していきます。彼は、従来の道徳が、この「意志」の肯定的な側面を強調し、その否定的な側面を抑制しようとするものであると批判しました。そして、真の自由とは、この「意志」の支配から解放され、自らの価値観に基づいて生きることであり、それは「超人」という概念へと繋がっていきます。

ポール・レー著「道徳感覚の起源と発展」

イギリスの功利主義思想家、ヘンリー・シジウィックの倫理学研究に影響を与えたことで知られる、フランスの社会学者、ポール・レーの主著「道徳感覚の起源と発展」は、ニーチェが「道徳の系譜」で批判の対象とした、進化論に基づく道徳の起源の説明を提供しています。

レーは、道徳の起源を社会的な現象として捉え、特に、集団の存続と繁栄のために必要な協力と利他主義が、進化の過程でどのように発展してきたかを分析しました。彼は、道徳感情は、社会生活の中で経験的に形成され、世代を超えて受け継がれていくことで、一種の「社会的な遺伝」として定着していくと主張しました。

具体的には、レーは、初期の人間社会においては、食料や配偶者を巡る競争が激しく、個人の生存は共同体の協力に依存していたことを指摘します。その中で、協力的な行動をとる個体は、そうでない個体よりも生存と繁殖の確率が高まり、その結果、協力的な行動を促進する道徳感情が、自然選択によって強化されていったと説明します。

ニーチェは、レーの進化論的な道徳の説明を、道徳の起源を過度に単純化し、その複雑な歴史的・心理的な背景を軽視していると批判しました。彼は、道徳は単なる生物学的適応の結果ではなく、権力関係や社会構造、歴史的な偶然など、さまざまな要因が複雑に絡み合って形成されたものであると主張しました。

ダーウィン著「種の起源」

生物学の分野における革命的な書物であり、進化論の基礎を築いたダーウィンの「種の起源」は、ニーチェの道徳観にも間接的ながら重要な影響を与えたと言えます。

ダーウィンは、「種の起源」において、自然選択説を提唱し、生物が環境への適応を通じて、長い時間をかけて進化してきたことを明らかにしました。この進化論は、人間もまた、動物から進化した存在であることを示唆し、それまで絶対的なものとされてきた人間の特権的な地位を揺るがすものでした。

ダーウィンの進化論は、道徳の起源についても新たな視点を提供しました。すなわち、道徳もまた、生物学的進化の産物であり、人間が生存競争を生き抜くために獲得した、環境への適応の結果であると解釈できるようになったのです。

ニーチェは、ダーウィンの進化論そのものを直接批判したわけではありませんが、進化論を安易に道徳の領域に適用することには慎重な姿勢を示しました。彼は、道徳は単なる生物学的適応の結果ではなく、人間の精神の複雑な働きによって生み出されたものであり、その価値は進化論的な視点だけでは捉えきれないと考えていたからです。

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