ニーチェの道徳の系譜の原点
ニーチェの道徳観の変遷
「道徳の系譜」は、ニーチェの著作の中でも、その思想、特に道徳に関する考え方が成熟した段階を示す作品として知られています。しかし、この作品は、ニーチェの初期の著作から脈々と続く問題意識の上に成り立っていることも忘れてはなりません。
初期の著作における道徳批判の萌芽
ニーチェは、初期の著作である「悲劇の誕生」において既に、西洋文明を支えてきた道徳、特にソクラテス的な理性主義に疑問を呈していました。彼は、理性によって世界を完全に理解し、制御しようとする態度が、人間存在の根底にある非理性的な衝動や生の力を見失わせると考えたのです。
「人間的な、あまりに人間的な」における価値転換の思想
その後、ニーチェは「人間的な、あまりに人間的な」において、伝統的な道徳の価値観を相対化し、新たな価値観を創造する「価値転換」の思想を提示しました。彼は、従来の道徳が、弱者によって作り出されたものであり、強者の生の力を抑圧してきたと批判しました。
「ツァラトゥストラはこう語った」における超人思想
「ツァラトゥストラはこう語った」では、ニーチェは、従来の道徳を超越し、自らの価値観によって力強く生きる「超人」という理想像を提示します。超人は、善悪の彼岸に立ち、既存の道徳にとらわれることなく、自らの生の衝動に従って生きる存在です。
これらの作品における問題意識は、「道徳の系譜」において、より体系的かつ批判的な形で展開されていくことになります。