## ニーチェの悲劇の誕生に関連する歴史上の事件
###
ドイツ統一運動とプロイセン・フランス戦争(1870-1871)
ニーチェは20代の頃、普墺戦争に従軍看護師として従事し、戦場の悲惨さを目の当たりにしました。そして、その直後に出版された『悲劇の誕生』には、戦争の経験が色濃く反映されています。特に、ギリシャ悲劇におけるディオニュソス的な陶酔と苦悩、そしてアポロン的な秩序と理性との対比は、当時のドイツ社会が経験した統一運動と戦争の熱狂と混乱、その後の勝利と喪失感を反映しているという解釈があります。
当時のドイツは、プロイセン王国による統一運動が頂点に達し、フランスとの戦争を経てドイツ帝国が誕生するという激動の時代でした。この国家的興奮と熱狂は、人々に新たな時代への希望と同時に、伝統的な価値観の崩壊、アイデンティティの喪失といった不安も与えていました。
ニーチェは、このような時代背景の中で、古代ギリシャの悲劇に人間の根源的な生の力強さと、苦悩や悲劇をも肯定する力強い生の肯定を見出しました。彼は、理性や道徳によって生の混沌や苦悩を抑圧しようとする現代社会に対して、ディオニュソス的な陶酔と苦悩を通して生の全体性を肯定する、新たな文化の創造を訴えたのです。