## ニーチェの善悪の彼岸の対称性
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1. 善と悪の対称性
ニーチェは、本書において伝統的な道徳、特にキリスト教道徳における「善」と「悪」の二元論を批判しています。彼は、これらの概念が絶対的なものではなく、むしろ歴史的、社会的な構築物であると主張します。善悪の彼岸とは、この固定化された善悪の枠組みを超越することを意味します。
ニーチェは、「主人道徳」と「奴隷道徳」という対比を用いて、善悪の価値観がいかに異なるかを説明します。主人道徳は、力強く、創造的な生の肯定に基づいており、自らの価値観を肯定的に「善」と規定します。一方、奴隷道徳は、弱者や抑圧された人々の怨嗟に基づいており、「主人」の価値観を否定的に「悪」と規定します。
ニーチェは、善悪の価値観が立場や力関係によって逆転することを示唆することで、善と悪の絶対的な境界線を解体しようとします。
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2. アポロ的なものとディオニソス的なものの対称性
ニーチェは、ギリシャ神話の神アポロンとディオニソスを対比させながら、人間の文化や精神の根底にある二つの原理を説明します。
アポロンは、理性、秩序、調和、個体性を象徴する神であり、彫刻や建築といった造形芸術に代表されます。一方、ディオニソスは、本能、混沌、陶酔、全体性を象徴する神であり、音楽や演劇といった非造形芸術に代表されます。
ニーチェは、この二つの原理が人間存在において不可欠であると考えます。アポロン的なものは、世界を秩序化し、意味を与えることで、人間に安全と安定をもたらします。一方、ディオニソス的なものは、既成の秩序や価値観を破壊し、新たな創造へと導きます。
ニーチェは、善悪の彼岸に至るためには、このアポロ的なものとディオニソス的なもののバランスを取り、両者を統合することが必要であると主張します。