## ナイチンゲールの看護覚え書の思想的背景
### 1.
クリミア戦争での経験
ナイチンゲールは「看護覚え書」を執筆する以前に、クリミア戦争で従軍看護師として活躍しました。スクタリ野戦病院の劣悪な環境下で、彼女は献身的な看護を実践し、兵士の死亡率を大幅に減少させたことで「クリミアの天使」と称賛されました。
この経験を通して、ナイチンゲールは当時の病院における不衛生な環境や看護の質の低さに衝撃を受けます。そして、病院の環境改善や看護師の専門性の確立が急務であると痛感しました。「看護覚え書」は、こうしたクリミア戦争での経験を踏まえ、より良い看護を提供するための指針として著されたのです。
### 2.
当時の社会状況と女性の役割
「看護覚え書」が書かれた19世紀のイギリスは、産業革命の影響で社会が大きく変化した時代でした。都市部への人口集中によって、貧困や病気の問題が深刻化し、病院の役割も変化しつつありました。
当時の女性の社会進出は限られており、看護は「女性の仕事」とされながらも、専門的な知識や技能を持つ職業としては認められていませんでした。ナイチンゲールは、こうした社会状況の中で、女性が専門職として活躍できる場として看護を捉え、その社会的地位の向上を目指していました。
### 3.
ナイチンゲールの宗教観と道徳観
ナイチンゲールは敬虔なクリスチャンであり、神の愛に基づいて病める人々に奉仕することを自らの使命と信じていました。彼女は、看護を「神から与えられた仕事」と捉え、「看護覚え書」の中でも、倫理観や道徳観を重視する姿勢を明確に示しています。
ナイチンゲールは、看護師は高い道徳心と責任感を持ち、患者に寄り添いながら、その回復を支える存在であるべきだと考えました。そして、「看護覚え書」の中で、看護師としての心構えや患者との接し方について具体的な指針を示しました。