ナイチンゲールの看護覚え書に影響を与えた本
影響を与えた書物:Queteletの「人間について」
フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争での献身的な看護活動を通じ、「クリミアの天使」と讃えられ、近代看護の礎を築いた人物として知られています。彼女の功績は、戦場での経験に基づいた実践的な看護だけでなく、統計データを用いた医療衛生改革を推し進めた点にもあります。
ナイチンゲールの革新的な考え方に影響を与えた書物の1つに、アドルフ・ケトレーの著した「Sur l’homme et le développement de ses facultés, ou Essai de physique sociale (人間について:社会物理学の試み)」、通称「人間について」が挙げられます。ケトレーはベルギーの数学者、統計学者であり、「社会物理学」の創始者として知られています。彼は、人間社会の様々な現象を統計的手法を用いて分析し、法則性を見出そうとしました。
「人間について」は、ケトレーの社会物理学の集大成ともいえる書物で、出生率や死亡率、結婚率、犯罪率など、多岐にわたる社会現象を統計データに基づいて分析し、人間の行動や社会の動態を明らかにしようと試みています。ナイチンゲールは、ケトレーの統計的手法と、社会現象を科学的に解明しようとする姿勢に感銘を受けました。
特に、ナイチンゲールは、ケトレーが統計を用いて社会問題の解決を目指した点に共感しました。彼女は、ケトレーの考え方に影響を受け、医療現場においても統計が重要な役割を果たすと確信するようになりました。
ナイチンゲールは、クリミア戦争から帰還後、膨大な量の戦死者データを集積し分析を行いました。その結果、戦死者数の多くが、戦傷ではなく、病院内の不衛生な環境が原因で発生した感染症によるものであることを統計的に明らかにしました。そして、病院内の衛生環境改善の必要性を訴え、病院改革を推進しました。
ナイチンゲールは、自らの看護実践と統計データに基づいた科学的根拠を結びつけ、医療現場の改革を訴えました。「人間について」は、ナイチンゲールに統計の重要性を認識させ、医療における統計利用の先駆者としての道を切り開くきっかけを与えた重要な書物と言えるでしょう。