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ドワーキンの法の帝国に影響を与えた本

ドワーキンの法の帝国に影響を与えた本

ホッブズの『リヴァイアサン』

トーマス・ホッブズの『リヴァイアサン』は、ロナルド・ドワーキンの法哲学、特に彼の代表作『法の帝国』に大きな影響を与えた作品です。ドワーキン自身、ホッブズを自身の著作において頻繁に論じており、彼を「法と政治の偉大な理論家」の一人とみなしています。本稿では、『リヴァイアサン』が『法の帝国』に与えた影響について、特に以下の3つの点に焦点を当てて考察していきます。

まず、『リヴァイアサン』における自然状態の概念は、ドワーキンの法理論の根幹をなす「解釈としての法」という考え方に大きな影響を与えました。ホッブズは、国家が存在しない自然状態では、全ての人間が自己保存のためにあらゆる権利を持つと同時に、他者の権利も侵害しうる「万人の万人に対する闘争」の状態に陥ると論じました。このような無秩序な状態から脱却するために、人々は社会契約によって自然権の一部を放棄し、絶対的な主権者である国家にそれを委ねることで、平和と安全を保障されるのだとホッブズは主張しました。

ドワーキンはホッブズの自然状態の概念をそのまま受け入れるわけではありませんが、法の根底には、社会の構成員が共有する一定の価値観や原則が存在するという点で、ホッブズの思想と共通点を見出しています。ドワーキンは、法の解釈とは、過去の判例や法原則を単に機械的に適用するのではなく、それらを社会の共有された道徳的・政治的価値観に照らし合わせて、最も整合的で説得力のある形で理解しようと努める行為であると論じました。これは、ホッブズが自然状態からの脱却の必要性を説いたように、ドワーキンもまた、法の解釈においても、単なる規則の適用を超えた、より深いレベルでの道徳的・政治的な考察が不可欠であると考えた点で、両者の思想には通底するものがあります。

次に、『リヴァイアサン』における主権者の概念もまた、ドワーキンの法理論、特に彼の司法哲学に大きな影響を与えました。ホッブズは、社会契約によって成立した国家において、主権者は絶対的な権力を持つと主張しました。主権者は法律の制定と執行を通じて社会秩序を維持する責任を負い、その権力は分割されるべきではないとホッブズは考えました。

ドワーキンは、ホッブズのように主権者の絶対性を支持するわけではありませんが、裁判官は単なる法の適用者ではなく、過去の判例や法原則に内在する道徳的・政治的価値観を解釈し、発展させる役割を担うという点で、ホッブズの主権者論の影響を受けています。ドワーキンは、「法の継承」という概念を用いて、裁判官は過去の判例や法原則から成る「鎖」を受け継ぎ、それを最も整合的で説得力のある形で未来へと繋いでいく義務を負うと論じました。これは、ホッブズが主権者に社会秩序の維持という重要な役割を担わせたように、ドワーキンもまた、裁判官に法の継承という重要な役割を担わせる点で、両者の思想には共通点が見られます。

最後に、『リヴァイアサン』における自然法思想の影響にも触れておく必要があります。ホッブズは、人間は理性によって、自己保存のために守るべき自然法を認識できると論じました。自然法は、国家の成立以前から存在する普遍的な道徳法則であり、社会契約や制定法も、この自然法の原則に基づいて正当化されるとホッブズは考えました。

ドワーキンは、ホッブズのように自然法の概念を明示的に用いるわけではありませんが、彼もまた、法の根底には、人間社会の普遍的な道徳的価値観が存在すると考えている点で、自然法思想の影響を受けていると言えます。ドワーキンは、法の解釈は、単なる規則の適用ではなく、これらの普遍的な道徳的価値観を追求する行為であると論じました。これは、ホッブズが自然法を社会秩序の基盤とみなしたように、ドワーキンもまた、普遍的な道徳的価値観を法の解釈の基盤とみなす点で、両者の思想には共通点が見られます。

以上のように、『リヴァイアサン』は、自然状態、主権者、自然法といった重要な概念を通じて、ドワーキンの法理論、特に彼の「解釈としての法」という考え方に大きな影響を与えました。ドワーキンの法哲学は、ホッブズの思想を批判的に継承しながら、現代社会における法の役割と意味を深く問い直すものです。

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