## ドライサーのアメリカの悲劇の美
ドライサーの描く「美」とは
セオドア・ドライサーは、自然主義文学の旗手として知られ、人間の欲望や社会の矛盾を克明に描き出しました。彼の代表作「アメリカの悲劇」においても、美しい風景描写や華やかな上流社会の描写が登場しますが、それは単なる装飾ではなく、むしろ主人公クライドの悲劇を際立たせるための対比として機能しています。
自然描写の二面性
ドライサーは、自然の美しさを描写することに長けています。例えば、クライドがロバータとボートに乗る場面では、湖の静けさや緑豊かな風景が美しく描かれています。しかし、この美しい自然は、同時にロバータを殺害する舞台ともなり、クライドにとって逃れようのない罪の意識を象徴するものとなります。
上流社会の虚飾と退廃
クライドは、叔父の経営する工場で働く中で、上流社会の華やかさに憧れを抱きます。社交界のパーティーや華麗な衣装、洗練されたマナーは、クライドにとって抗いがたい魅力を持っています。しかし、その裏には、退廃的な享楽や冷酷な人間関係が隠されており、クライドは次第にその虚しさに気づいていきます。
対比が生み出す悲劇性
ドライサーは、美しいものと醜いもの、華やかなものと残酷なもの、希望と絶望といった対比構造を効果的に用いることで、クライドの置かれた状況の悲劇性を際立たせています。美しい風景や上流社会の描写は、クライドの願望や夢を象徴すると同時に、彼が決して手に入れることのできないものであることを強調し、彼の運命をより一層哀れなものとしています。