ドライサーのアメリカの悲劇の対極
「アメリカの夢」の体現
セオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』（1925年）は、20世紀初頭のアメリカにおける資本主義の暗部を容赦なく描いた作品として知られています。物質主義、社会階級、そして「アメリカンドリーム」の虚像に翻弄されるクライド・グリフィスの人生は、多くの読者に衝撃を与え、社会に鋭い疑問を投げかけました。
それでは、ドライサーの作品とは対極に位置する「アメリカの夢」を体現する作品とは、一体何なのでしょうか？
多様な解釈と可能性
「アメリカの夢」は、時代や個人によって解釈が異なるため、一概に「対極」を定義することは困難です。しかし、いくつかの作品は、ドライサーの悲劇的なビジョンとは異なるアメリカの側面を描き出しています。
例えば、ホレーショ・アルジャー・ジュニアの立身出世物語は、勤勉さと誠実さによって貧困から成功を掴む若者を描写し、19世紀後半のアメリカ社会に広く受け入れられました。
また、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』シリーズは、開拓時代の厳しい自然環境の中でも、家族の愛情と努力によって希望を見出すフロンティア精神を描いています。
20世紀に入ると、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』は、第一次世界大戦後の好景気の中で富と地位を追い求める人々の虚飾と悲哀を描きました。一見、ドライサーの作品と共通点があるようにも見えますが、『グレート・ギャツビー』は、主人公ジェイ・ギャツビーの純粋な愛情と理想主義、そして失われた過去への郷愁を描き出し、「アメリカンドリーム」への複雑な視点を提示している点が大きく異なります。
「対極」の不在と多様性
これらの作品は、「アメリカの夢」の光と影、成功と挫折、希望と絶望といった、多面的で複雑な現実を映し出しています。ドライサーの作品が「アメリカの悲劇」であるならば、これらの作品は「アメリカの喜劇」、「アメリカの希望」、あるいは「アメリカの現実」と呼ぶことができるかもしれません。
重要なのは、「対極」という単純な二項対立を超えて、それぞれの作品が問いかける社会や人間の普遍的なテーマに目を向けることでしょう。