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ドッブの価値と分配の諸理論から学ぶ時代性

ドッブの価値と分配の諸理論から学ぶ時代性

ドッブの価値と分配の諸理論における時代性:古典派経済学との対峙

モーリス・ドッブは、その主著『経済学説史および解釈史』や『価値と分配の諸理論』において、古典派経済学からマルクス経済学に至るまでの価値と分配に関する理論の歴史を、独自の視点で分析しました。ドッブは、各時代の理論を単なる歴史的な積み重ねとして捉えるのではなく、それぞれの理論が生まれた時代背景や社会状況、そして当時の問題意識と深く結びついていることを強調しました。

重商主義から古典派経済学へ:社会経済構造の変革

ドッブは、重商主義から古典派経済学への移行期において、イギリス社会が封建制から資本主義へと大きく変貌を遂げたことを重視しました。重商主義が国家による富の蓄積を重視したのに対し、古典派経済学は自由競争と市場メカニズムによる経済成長を唱えました。これは、産業革命による生産力の増大、市民社会の台頭、そして自由主義思想の広まりといった時代背景を反映したものでした。アダム・スミスやデイヴィッド・リカードといった古典派経済学者は、自由な経済活動こそが社会全体の利益に繋がるという信念に基づき、価値や分配に関する理論を構築しました。

マルクスの登場:資本主義の矛盾への批判

ドッブは、カール・マルクスの登場によって、価値と分配の理論が新たな局面を迎えたと指摘しました。マルクスは、古典派経済学が前提とした資本主義社会そのものに内在する矛盾を鋭く批判しました。古典派経済学は、労働価値説に基づきながらも、労働者への搾取の問題を正面から論じることができませんでした。一方、マルクスは、剰余価値論を展開することで、資本主義における利潤の源泉が労働者の未払い労働にあることを明らかにしました。これは、19世紀後半、資本主義が発展する一方で、貧富の格差や労働問題が深刻化していた時代背景を反映しています。

20世紀の経済学:ドッブの批判的継承

ドッブ自身も、20世紀前半の経済学、特に限界効用学派やケインズ経済学に対して、独自の批判を加えました。ドッブは、これらの理論が資本主義の抱える根本的な問題から目を背け、市場メカニズムの調整機能を過信していると批判しました。ドッブのこうした態度は、世界恐慌や二つの世界大戦を経て、資本主義の不安定さと社会主義への関心が高まっていた時代背景と無関係ではありません。

ドッブの視座:歴史と理論の相互作用

ドッブの価値と分配の諸理論に対する分析は、単なる学説史の域を超え、経済学における時代性と社会構造の関係を浮き彫りにするものでした。ドッブは、それぞれの時代の経済理論が、当時の社会経済的な問題意識や歴史的な文脈と密接に関係しながら形成されてきたことを示しました。彼の視点は、現代の私たちにも重要な示唆を与えています。現代社会が直面する経済問題を深く理解するためには、過去の理論を学ぶだけでなく、その背景にある時代性や社会構造をも読み解くことが不可欠と言えるでしょう。

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